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久々の再会は思いがけない形で訪れる③

「いつまで……そのような甘い戯れ言を信じてるつもりだ!?この世界は、私達にとって非常に危険だというのは分かっているはず。もちろん、コイツはお前の言うソウタなどではない。幻____お前の弱き心が生み出す幻でしかない……姿形のみに惑わされるな」 サンの怒鳴り声が静寂に包まれていた車内に響き渡る。確かに、彼の言う通り――心当たりがないとは言えない。 僕はずっと双子である想太と再会し救いたいと思っていたし、更に仲間である皆と一緒にダイイチキュウで平穏に暮らせていけたらという妄想じみた願いを心の奥底で無意識のうちに望み続けていたのだ。 しかし、サンの言うことも一理ある。 このミラージュでは、かつて暮らしていたダイイチキュウと違って魔法が存在し、更にチカや金野力といった敵が存在する以上――何が起こってもおかしくはないと以前の経験から身を持って知っていた。 つまり、自分の叶えられなかった――もしくは今も叶えられずにいる願いが具現化して、このような形で振りかかってきても何ら不思議なことではない。 そのように、頭の中で微かに思いかけた直後のことだ。僕はふと、目線を再び窓の方へと向けてみる。今は、もう霜がついてもいない。ただ、暗闇が映っている。 それは、半ば無意識の行動だった。 しかしながら、これからの行動を示すためには重要な行動でもあった。とにかく、僕は目の前で眉ひとつ崩さず真下にある本へ目線を送り平静な様子の《想太》が本当に彼であるのか確認しようとした。 【得たいの知れない存在であるなら、姿が窓ガラスに映らないんじゃないのか?】 それが、僕の確認したいこと。 ダイイチキュウで語られていたお化けでも、彼が今目にしている本に出てくる魔物でも――《得たいの知れない存在》はガラスや鏡に映らないと決まっていた。 でも、本へ目線を落としている《想太》はちゃんと窓ガラスに映っている。ちゃんと、僕の目の前にいるのだ。 それを認識した途端、僕の脳内にさっきからずっと纏わりついていた不安がスッと失われた。 (やっぱり……目の前にいるのは本物の想太なんだ____) 一度、そんな風に思ってしまうと――もう、自分の意思では止めらない。 心の中に奇妙なわだかまりが残っていると自覚しながらも勝手に足が《彼》の方へ動いていってしまう。 【優太。一緒に、このまま――《家》に帰ろう。今夜はクリスマス……知ってた?クリスマスには願いを叶えてくれる力があるんだよ。ママが家で豪華なディナーを作って待っててくれてる……パパが仕事帰りにでっかいクリスマスケーキを買ってきてくれる。それに、誠も引田もミスト達も……パーティーを開くために僕らを待っててくれてる……だから、一緒に《家》に帰ろう____ね?】 ふと、今までは座席に座り手にしていた本のページに目を落とすばかりだった《想太》が初めて大胆な行動に移った。まるで、聖書に出てくる聖母の如く柔らかい笑みを浮かべたまま、サンと《彼》の言葉を天秤にかけて戸惑いの色を滲ませている僕の体を強く抱き締めたのだ。 そして、その直後――今まで痺れをきらしていたといわんばかりに不快な表情をあらわにしていたサンが、僕を抱きしめている姿勢のため背中を向けていた《想太》に向けて引き絞っていた弓矢をここぞとばかりに放つのだった。

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