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ようこそ、【カレ 、、のせかいダ】へ②
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白い紙吹雪が舞う異様な町を、僕はサンの手を引っ張りながら必死で駆けている。
異様なのは、あの《おもちゃの列車》に乗っていた時もそうだったのだけれども、それよりも今の状況の方が遥かに深刻だ。
話は少し前に遡る____。
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《おもちゃの列車》から半ば強引に降車させられた後、僕とサンはとある奇妙な駅に降りさせられたのだと気がついた。
【ヒツウとコウカイに苛まれているダレ、、カのせかい → → → 罰、罰、罰、← ← ←カレ、、のせかいだ】と表示されている駅の看板。
僕とサン以外、駅長も乗客も一人もいなく静寂に包まれるホーム。それなのに、待ち合い室の中には誰かを待っているといわんばかりに赤いストーブから煙がもくもくと空に浮かぶ雲みたいに吹き出ていて、更にはその上に置いてあるヤカンからシュン、シュンと音をたてつつ湯気がたっている。
とりあえず、誰もいない待ち合い室に入った僕は未だに気絶し続けおぶさっていたサンを長椅子へと慎重に横たわらせた。
悪夢を見ているせいなのか、眉間を寄せながらも緩やかに呼吸しているサンの状態を目の当たりにしてホッと胸を撫で下ろす。
(とりあえず、サンの体調は大丈夫そうだ……とはいえ____)
これから、いったいどうしたらいいのか。
何をするのが、最善の策なのか。
その、全ては僕の判断に委ねられている。
駅の待ち合い室らしき今いる場所の観察をしてみて、ふいに気付いた。
ここは、かつてダイイチキュウにいた頃に訪れたことがあるということを。
とはいえ、僕が学校にいくためにほぼ毎日通っていた駅の待ち合い室じゃない。そんな記憶は何度考えてみても心当たりがない。
「あ……っ____」
思わず声に出てしまった。
けれど、ようやくこの駅の待ち合い室がどこなのかハッキリと思い出せた。
僕が暮らしていて、ほぼ毎日学校に行くために使っていた【晞京都・××区】の《允世希駅》から二つ先にある《朱煌駅》の待ち合い室だ。長椅子が林檎のみたいに赤色なことや、駅長の乗客に対する計らいで真冬ではなく少し肌寒く感じる頃から待ち合い室内にストーブが置いてあること、あとは看板として黒猫のポスターが壁にベタベタと張られていることから、それを確信した。
そして、それと同時に何故か今まで忘れてしまっていた、かつての記憶を急に思い出した。
それでも、頻繁に、この駅に来た訳ではなかった。ただ、一度だけ――ある人達と共に訪れたことがあるのを思い出したのだ。
ムスッとして面白く無さそな表情をしていて明らかに僕に対して敵意を抱いていた猿田。
あまりにも気まずいせいで、二人の方から顔を逸らし気味にしていた僕。
それに、その状況を楽しげに笑いながら観察していた体育教師だった鬼根塚。
何故、学校内ではろくに関わりすらしなかった彼らと共にここを訪れたのか――そんなことを考えあぐねている内に、サンが目を覚ましたため、いったんその疑問は胸の中にしまい、すぐには体を起こそうとしない彼とこれからどうするかを話し合う。
この待ち合い室を出るのは勿論のことだけれど、とりあえずは今いるこの駅を背にして北へと向かって進もうという結論に至った。
ずいぶんと、ざっくりとした大雑把な計画だ。
けれども、それも仕方ないと妥協するしかない。
何せ、駅の外側にどんな【せかい】が広がっているのか____。
その時の僕らには、想像すらできなかったのだから。
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