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『ダレでも夢を叶えられる世界、それはダレの憧れなのカ』①
*
いつの間にか、辺りは薄暗くなっていた。
マーブル状の空の色も、橙、紫、赤が入り混じった幻想的なものに変化していた。
コンパス型をしている防災行政拡声器らしきものからは、猿田そっくりな声の不気味なアナウンスではなく『夕焼けこやけ』のメロディが流れ続けているのが分かる。
そんなふうに僅かな変化をきたした【猿田の生み出した世界】を、ひたすら前へ前へと歩いているうちに僕の目に、またしてもダイイチキュウにある晞京都の街で見たことのある物が飛び込んできて足を止めてしまう。
正確には、薄暗い辺り一面の中、ある場所にボンヤリと浮かびあがる白光が気になってしまったから足を止めたのだけれど、それは大した問題じゃない。
《ダイイチキュウの自販機にそっくりで長方形な物》の側で、しゃがみ込む少年がいるのだ。一瞬、ついさっきまで車の中にいた《引田のようで引田じゃない少年》かもと思ったのだけれど、そろそろと近づいて行ったことで、そうではないことに気付いた。
パッと見た感じでは、小学生くらいのその少年は近づいてきた僕とサンのことなんて眼中になく、しゃがみ込みながら《ダイイチキュウの自販機にそっくりで長方形な物》の取り出し口から何かを必死で取り出そうとしている。
しかし、奇怪なのは――しゃがみ込む少年の影なのだ。
影として映っている少年の頭から、二つの尖った耳が生えているのが一目で分かる。更には、しゃがみ込んでいる少年のお尻から普通の人間には生えていない筈の尻尾があり上下にパタパタと揺れている。
これでは、まるでダイイチキュウでいうところの動物だ。
生身として目に飛び込んでくる少年は普通の姿なのに、影はまるで何かの動物のような耳が生えているというチグハグな光景に対して不安と僅かながらの恐怖を感じた僕は慌ててこの場から離れようとした。
しかし、また新たなる事実に気付いてしまう。
隣で訝しげに不思議な少年を見つめて何事かを考え込んでいるサンよりも先に、自分達にとって、とても重要なある違和感に気付いてしまった。
「ま、誠?キミは……もしかして____誠なの!?」
不安から、声をかけるのを思い止まり少年をジーッと注意深く観察しているうちに、その違和感は徐々に膨れあがっていき、やがてそれは確信となった。
「…………」
謎の少年からの答えはない。
だが、その代わりといわんばかりに今までしゃがみ込んでいただけの少年はすっくと立ち上がると《ダイイチキュウの自販機にそっくりで長方形な物》の画面を少しの間見つめてから、ある場所のボタンをピッと押すのだった。
しかし、僕の予想に反して《ダイイチキュウの自販機にそっくりで長方形な物》の開かれた取り出し口には何かが出てくる気配はない。
【……り、~~~~で……するしか____いのか……】
しゃがみ込んだままの《誠のようで誠ではない少年》は、ボソッと呟いた。
その言葉の意味は、僕やサンには届くことはない。
だけど、とても悲しそうな雰囲気を纏っているのは見ただけでも感じ取れた。
そして、その直後のこと____。
不思議な雰囲気を纏った少年は僕とサンの前から風に吹かれた砂のように一瞬にして姿を消してしまうのだった。
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