「え……っ＿＿＿＿！？」 ついさっきまでいた、幼い子供の頃の誠の面影を漂わせる少年がフッと神隠しのように、その場から消え去ってしまった事実を目の当たりにして僕は目を丸くするしかなかった。 でも、サンはこんな時でも冷静だ。 「ユウタ、もう……ここにいても何の意味すらないだろう。唯一の手掛かりが姿を消してしまったのだからな。それどころか、あのように一瞬で姿を消してしまったのだから何らかの魔術がこの場に仕掛けられている可能性が高い。ここは、潔く離れて他の手掛かりを探すべきだろう」 「う……うん、そうだね」 サンの言葉には納得したもののどこかモヤモヤした思いを胸に秘めつつ、僕は頷くとそのまま《ダイイチキュウにある自販機そっくりな四角いもの》が立っている場所を後にしようと身を翻しかけた。 けれど、その直後全く予想できないことが起きたんだ＿＿＿＿。 ゴトンッ………… 背後から、何か重いものが落ちてくるような音がした。ダイイチキュウにて暮らしていた時に聞き慣れている音。 落ちてきたものが何かということは、ダイイチキュウで暮らした経験のある僕であれば、自然と察せられた。 自販機の取り出し口から、望みどおり飲み物の缶が出てきた時の音だ。 サンは普段の堂々たる様とは裏腹に突如として発せられたその音にビクッと身を震わせていた。 生まれてきてからずっとミラージュで過ごしてきた彼にとって、その音と、そもそも《自動販売機》という物体とは無縁なため、あまりにも得体の知れないそれに対して不気味さを抱いたということであり極自然な行動ともいえる。 「お、おい……ユウタ＿＿＿＿いったい、何をするつもりだ！？ついさっき、此処から離れるべきだと……言ったはずだ！！」 「そ……それは分かってる。他のみんなを探すための手掛かりが……此処とは別の場所にあるってことも分かってる。でも、ボタンを押しもせずにあそこから望みの物が出てきたってことが……さっきから引っ掛かって仕方ないんだ。何か、意味がある気がする……猿田のメッセージが＿＿＿＿これを取り、そして中身を確認することによって汲み取れる気がする。ごめん、サン……僕はみんなを救うと同時に【この世界】を作り上げ敵となった元クラスメイトの猿田のことも見捨てられないんだ」 後ろ髪を引かれる思いで、僕は力尽くで引き止めようとしてくるサンから離れると、そのまま取り出し口の前で屈み込み、落ちてきた物を拾い上げる。 白い光が放たれているパネルにはカラフルな缶ジュースが所狭しと横に並べられている。 《AI－dol ♪♪☆》、《Dｒ，Ginger 》、《花鷹屋》といったジュースやお茶があるのが見えて、どことなく違和感を抱く。けれど、その違和感の正体はすぐには分からず、まるで喉に魚の骨が引っ掛かった時みたいな気持ち悪さを覚えてしまうのだ。 (そうだ……それよりも、これの中身を見てみなくちゃ＿＿＿＿) ハッと我にかえり、僕は今手にしている缶ジュースへと目線を落とした。 銀色のプルタブに指をかけ、力を込める。幼い子供の頃はこれを開けるのさえ苦労したものだけど、カシュッと音を立ててそれは開いた。 中には、無臭の液体が入っている。 よくよく見たところ、白濁色の液体が入っているようだ。 その直後、僕の意思とは裏腹に――缶が飛び跳ねたかと思うと、そのままゴトッと音を立てて灰色のコンクリートへ落ちていき、ジワリと染みを作るのだった。