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白い砂浜と長方形な黒枠の世界①
*
(早く……早く起きなくちゃ____そうしないと――そうしないと……えーっと……何だったっけ……)
僕の別の意識(本能的な意識とでもいうのだろうか)が警鐘を鳴らしたとしか思えなかった。
目を覚ます今まで、僕はある《夢》を見ていたのだ。
それは周囲に立ち込め渦巻く真っ白な霧に飲み込まれ、通い慣れていた通学路が掻き消されてしまいかねない【ダイイチキュウの唏京都】で、何も恐れを抱くこともなく姿形がまるっきり変わり果ててしまった誠や引田、それにミスト達と一緒に学校へと向かって行くという奇妙な夢だった。
ニンゲンである筈の誠や引田は【魔物】や【エルフ】に。
エルフである筈のミストとサンは【ニンゲン】に。
スライムという種族であるライムスは《ニンゲン》でも《エルフや魔物》でもなく、かつてダイイチキュウの美術室に飾ってあったような《顔》を持たない【人型の彫刻】に。
そんな、端から見る分には幸せそうに見えるけれども僕にとっては悪夢としか見えない奇妙な夢だった。
目を覚ました途端にボロボロと大粒の涙が自然と溢れ出たのだから、もしもこのまま目を覚ませなかったとしたら大変なことになっていたに違いない。
だが、そうだととしても、それはあくまでも僕が勝手に作りあげた夢の中の話なのであって、既に目を覚ました後であるため正にたった今――直面している異変の方が遥かに衝撃的であり危惧すべき事態なのは間違いないと思い直す。
目を覚ました直後はボーッとしていて、すぐには気付けなかった。
その異変はとてもゆっくりで徐々にとはいえ、確実に僕の体が下へ下へと沈んでいっている。
そして、我にかえり鮮明な思考を取り戻した僕はようやく周りの状況を把握することができた。
僕の辺り一面には白い砂浜が広がっており、尚且つ――体が真下へと何者かの力によって引きずり込まれようとしている。
沈みゆく中で、よくよく見てみれば、白い砂浜には所々に灰色の貝殻や化石のようなものが散らばっているのが見える。
灰色の貝殻は先端がトゲトゲしていて、どこと文字なくヒトの手みたいだ――と、この場に似つかわしくないことを思った。
でも、そんな無駄なことをすればする程にゆっくりとはいえ着実に体が奈落の底へと沈み続けていくことを思い浮かべ て、咄嗟に再び目を閉じてしまった。
もちろん、それは抗えない恐怖心からくる行為であって決して意図して行ったことではなかった。
けれども、僕の予想とは裏腹に再び目を瞑ってから少しすると体が沈む感覚が突如として消え去ったため、おそるおそる目を開けて目の前に起きたことを確認した。
体がちょうど半分埋まった所で真下へと引きずりこまれるという動作が突如として静止し、その代わりといわんばかりに仰向け状態となっている僕の眼前に長方形の黒枠が何の脈絡もなく突然出現していることに気付いたため、新たに困惑する事態となってしまうのだった。
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