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白い砂浜と長方形な黒枠の世界②
ついさっきまでは、白い砂にずぶずぶと体が沈み続けていた。
だけど今は、それもすっかり静止している。
それに体の動きはぎこちないけれども、だからといって全く動かせないという訳じゃない。
以上のことに気付いた僕は、ゆっくりと身を起こしてみた。
多少の不快感とだるさはあるものの、その他には特に体の異常はないようだ。
ただ相変わらず眼前には、全てが謎に満ちているとしか言いようがない長方形型の黒枠が出現している。
ふと、手を伸ばしてみて触れようとした。
だけど、いくら精一杯手を伸ばしてみても、その黒枠には届かないし消え去る気配すらないのだ。
何故、こんなにも近くにあるように見えているのに、いくら手を伸ばしてみても届かずに触れることが出来ないのだろうか――と不思議に思ってモヤモヤしているうちに、ある違和感とひとつの考えが浮かんできた。
その【違和感】は、黒枠の大きさが異様に小さく見えるということ。
そして【ある考え】とは、頭の中ではすぐ近くにあるように思えていたけれども実際は僕がいる位置から結構離れた場所に出現しているのではないかというものだ。
つまりは僕が前へと歩き続けていれば、いずれその黒枠に触れられるのではないかという考えが思い付いたのだ。
すると、体を起こして白一面の砂に覆われた辺りを見渡しているうちに、重大なことを思い出した。
今の今まで、どうしてそんな重大なことを忘れてしまっていたのかは分からない。
奇妙な夢を見ていたのだから、すぐにサンかいなくなってしまっていることに気付いてもおかしくはないのに、まるで僕の頭の中に得たいの知れない小さい存在がいて、サンがいなくなったという事実》の記憶だけを何かがむしゃむしゃと食べてしまったんじゃないかと思う程にすっぽりと抜けてしまっていた。
(サンという名の存在がいる)
____それ自体は、覚えている。
(サンが今、側にはいない)
____それだけが、覚えていない。
まるで魚の骨が喉にひっかかり続けているような、そんな記憶のちぐはぐさ加減に不気味さと不安を感じながらも、僕は前へと進み始まる。
最初のうちは、問題なかった。
だんだんと、目の前にある黒枠にも近づいていっている。
だけど、その黒枠はもう少し、あと少しで届く――というところで何故か僕の伸ばした手からするりと逃げていく。
それでも歩みを止めるわけにはいかなかったから、何度も手を伸ばして何とかして黒枠に触れてみようと試みる。
不思議なのは、僕が手を伸ばして黒枠に触れようと諦めずに前進するのを繰り返す度に、根っこが張ってしまったのではないかと思うほど――あるいは鉛でできているんじゃないかと思うほどに、足取りが徐々に重くなっていくことだ。
四方八方に広がっている《白い砂浜》に辺りに散らばるヒトの手によく似た形の異様な貝殻らしきもの――それに、僕が歩き始めた直後から周囲にいくつも出現した、しわしわな老人の腕のように生気のない幹に支えられている灰色の木____。
それらはいずれにしても、今の僕を取り囲んでいること。そして、そっと触れてしまっただけで、呆気なく風に舞った後に流れるように消えてしまい、二度と此方へと戻ってきそうにないような儚い印象のあるものだ。
そうこうしているうちに、いったいどのくらいの時間が経ったのか。
《黒枠》が離れては、追い掛け____
追い掛けていく度に《黒枠》が離れていく。
そんな堂々巡りの現象を、重くなっていく足を必死で引きずりながら幾度となく繰り返していくと、ふいに僕から影のように追い掛けては逃げていった【長方形の黒枠】がピタリとその奇妙な動きを止めて僕の前に固定された。
そして、ようやく僕はおそるおそる【動きを止めた黒枠】に両手を伸ばして遂に触れることができたのだった。
すると、それに触れた途端にキラキラと煌めきを放つ金色の光に包まれたため、あまりの眩しさに顔を歪めて咄嗟に目を瞑ってしまうのだった。
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