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白い砂浜と長方形な黒枠の世界②
*
眩しい光に包まれ、少しすると先程までは感知していなかった現象があることに気付いた。
とはいえ、その異変を感知した直後の僕は瞼が接着剤か何かでくっついてしまったのでは――と奇妙なことを思う程に、あまりにも強烈な眩しさから目を開けてはいられなかったのだ。
____音だ。
光に包まれる前までは無音に等しかったくらいに【白く無機質な世界】で、どこかで聞いたことのあるようなコツ、コツという音が耳に入ってくる。
目を閉じていて暗闇に包まれ、何も見えていない状態でも、耳は正常に聞こえているようだ。
しかも、その音は不思議なことに両手に持ったままの黒枠の方から聞こえてくるのが分かったため僅かばかり不安になりつつも、ようやく正常な状態へと戻った目をゆっくりと開ける。
黒枠は何時の間にか、僕の眼前にまで迫っていたのだけれど、何時の間にそうしていたのか記憶がない。
おそらく、目を閉じていた間――無意識のうちに行っていたのだろう。
奇妙なのは、それに気付いた後だ。
またしても、己が行っていたであろう行為をしたというのを(無意識のうちとはいえ)覚えていないという記憶のちぐはぐさ加減に不快な違和感と、例えばお化けを見たなんていう時とは比べものにならないくらいに背筋が凍るような漠然とした恐怖心を抱いたため咄嗟に《得たいの知れぬ黒枠》から逃れるべく遠ざけようと試みる。
すると、僕のしようとしていることを見透かされているかのように、《得たいの知れぬ黒枠》に異変が起こった。
つい先程までは、《黒枠》の内部には僕が目にしているそのままの光景――つまり一面の白い砂浜と所々転々と生えている灰色でカラカラに乾いた木、それに触れた途端に風に流され消え去ってしまいそうに儚い貝殻みたいなものが映っていた筈だった。
だけど、僕が両手で《黒枠》を遠ざけた直後――ぐにゃりと内部が歪み、辺り一面に広がる砂浜ではなく全く別の光景が徐々に映し出されていく。
両手を伸ばせる限界まで通ざけて僕の目に映ったのは、辺り一面に広がる暗闇の中央に存在する白い点。
しかも、耳を澄ませてみると『コツ、コツ』という音と――何やらボソボソと人の話し声らしきものが聞こえてくる。更に集中して、それらを聞いてみる。
すると、やはり不気味な音と内容がよく分からないボソボソ声は中央部分に見える、その白い点から聞こえてくることに気付いた。
(何だか気味が悪い……でも、これが僕の前に急に出現したということは、きっと何かしらの意味があるんだ――怖いけど、サンや皆のためにも確かめなくちゃ____)
恐怖心を何とか振り払い、僕はすうっと息を吸い込み力強く吐いた。
何故、そんなことをしたのかは自分でもよくは分からなかったけれど、そのおかげで勇気が出たのは間違いないと思った。
そして、僕はできるだけ両手を伸ばして遠ざけていた《黒枠》を、もう少しで画面と唇が触れてしまうのではないかという位置にまで近づけるのだった。
眼前まで引き寄せたせいで、目がチカチカする。
しかし、それも一瞬のことだった。
その直後に、僕の全身に瞬時鳥肌が立ったのは今まで経験したことがないくらいにゾッとするような不気味な光景が真っ直ぐに容赦なく飛び込んできたからだ。
ソレは、僕が長方形の黒枠の画面から目を離すことも――ましてや、すぐさま逃げようとする本能ともいえるべき行動さえ許してはくれない。
冷たい____無機質な、何の感情も込もっていない《複数の目》が画面を埋め尽くしてしまうほど此方へと向けられている。
まるで、ニンゲンである僕を値踏みしているかのように____。
不気味なくらいに幾つもの《目》が、此方をただひたすらに覗き込んでくるのだ。
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