676 / 713
無が支配する世界に埋まる一輪の希望②
*
ひたすら歩き続け、足が棒のようになってきた頃____。
僕は、突如としてある違和感を抱いた。
(さっきから、何だかずっと……同じ場所を――ひたすらぐるぐると歩き回っているような気がする)
最初は、単なる勘違いかとも思った。
これだけ四方八方、360度――似たような景色に包まれた【白い砂浜の世界】にいるのだから、そう思い込んでしまっても無理はないと。
あるいは、双六の《ふりだしにもどる》のマスのように、コマである僕がそこに止まった途端に最初にいた地点に強制的に戻されるといった【敵】の攻撃によって邪悪に満ちた故意に起こされる現象だと思っていた。
でも、本当にこれは【敵】の攻撃によって引きおこさるているだけなのだろうか――と何故か疑問を抱いた僕は目線を前ではなく、真下へと移してみた。
周囲には風が吹き続き、砂塵が辺りに舞い散る。
吹雪吹きすさぶダイイチキュウの雪国のような風景が広がっている【白い砂浜の世界】の中に、ある意味異物ともいえる物が砂地に埋まっているのが僕の目に飛び込んできた。
白い砂浜に埋まる、ひときわ目を引く黄色い何か____。
まるで、空に浮かぶ太陽のように凛としていて目を引く黄色い花の欠片。いや、花片の先端というべきか。
無機質で生命に満ち溢れる元の世界とは真逆ともいえる、この【白い砂浜の世界】に存在すること自体さえも奇妙に感じられる【ダイイチキュウで馴染みのあったヒマワリという花片の先端】____。
いずれにせよ、それが僕にとって必要な存在であることに変わりはない。
(詳しい理由なんて、この際どうでもいい――この真下にサンが隠れていることは明らかだ……っ…………)
急いで身を屈め、砂浜から出かかっている先端を掴むと、それを拾い上げようと力を込める。
しかし、なかなか上手く引き上げられない。
それどころか、このまま無理に引っ張りあげると花が千切れてしまって手がかりがなくなってしまいかねない。
それだけは阻止しなければ――と考え抜いた末に僕はある行動に移すことにした。
まるで、お宝を見つけた悪戯っぽい犬のように両膝を地につけて屈みながら、ヒマワリの花びらが埋まっている周囲を掘り始めたのだ。
それはまるで、ダイイチキュウの雪国では必須である雪かきさながらの行為だけれどもスコップなんていう便利な道具はある筈もないから途方がなくとも自分の両手だけで掘らなくちゃいけない。
そんなことをしているうちに、どのくらいの時間が過ぎていったのかも便利な時計もない、この【白い砂浜の世界】では知りようもない。
ある意味、拷問ともいえなくもない途方もない単純作業をひたすらし続けていくと、遂に僕にとって――いや他の仲間にとっても《希望》である《ヒマワリの花びらを掴みながら地上に向かって突き出しているサンの片腕》が目に飛び込んできた。
今までダイイチキュウで暮らしてきたり、ミラージュにて想太や知花を探す旅の最中で、これ以上ないくらいに火事場の馬鹿力さながら無我夢中で、ひたすら砂をかき分けていると、ようやく砂に埋もれ半分顔を出しているサンの姿を確認できた。
とはいえ、僕が解決すべき問題はまだいくつか残っている。
ひとつは、顔面蒼白なサンが息も絶え絶えにぐったりしているということ。
そして、もうひとつは――そんな弱っているサンに更なる危害を加えようと【黒い黒枠】の外側に今もいるであろう血も涙もない《芸術家を語る敵》なる複数の敵たちが目を爛々と輝やかせながら此方の動向を伺っているに違いないということだ。
(普通の砂のように見えるのに……すごく重く感じる――こんな状況でサンを砂から引き上げることなんて……できるのかな)
まるで、水分をじっくりと吸い込んだ雪のように、その砂は重いのだ。ただ、それとは違って冷たくはないのが僕にとって唯一の救いだとは思う。
再び、僕がかつてダイイチキュウにいた頃と同じような悪い考え癖に捕らわれかけてしまった。目的を、やり終えてもいないのに、やる前から《どうせできないだろう》と決めつけてしまう悪い癖だ。
今のこの状況下で、サンを唯一助け出すことのできる僕がこんな考えに捕らわれていては、再び会えた時に大好きな誠や引田____
____いや、彼らだけじゃない。
欠けがえのない《仲間》たちから叱責されてしまうじゃないか。
ともだちにシェアしよう!