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無が支配する世界に埋まる一輪の希望③

ダイイチキュウの学校に通っていた頃、まだ意地悪だった時の青木が仲間と共に話していた言葉を思い出す。 火事場の馬鹿力という、その言葉は僕にとってとても信じられないものだった。 昔、青木がまだ年端もいかない少年だった頃に住んでいた家で火事が起きてしまい、焼けかけたことがあったらしい。 そして、結果的にその火事は極小さなもので済んだそうなのだが、その頃の青木はひょろりとした小柄な体躯であったにも関わらず逃げる時に転んでしまい荷物の入ったタンスに足を挟まれてしまった兄を救うためにがむしゃらにタンスを引っ張り上げて無事に助け出した____というエピソードを自信満々に話していたのを思い出したのだ。 その頃の僕は意地悪されていたせいで、マイナス思考しか抱けず周りと違って随分とひねくれていた面とあったから青木の話は正直なところあまり信じていなかった。 でも、今ならば青木が決して嘘なんてついていなかったことが分かる。 何故なら、がむしゃらに白い砂を掘り続け――更には尋常ではないくらいの力を込めてサンの腕を引きあげてから暫くした後に無事に弱り果てた彼の体を、どのくらい深いかも分からないぽっかりとあいた穴の中から地上へと戻すことに成功したように思えたからだ。 確かに、僕はサンの体をどのくらい深いなかも分からない黒い穴から引き上げて地上に戻すという目的は取り敢えず成功した。 でも、乗り越えなけばならない試練はそれだけじゃなかったと思い直さなくちゃならない出来事がその直後に起こるとは知る由もなかった。 「え……っ____!?」 ようやく引き上げたサンの体全体に、何か小さなものが群がっているのが嫌でも目についてしまう。 体躯としては、とても小さなものの、いかんせん数が多過ぎる上に《それら》はどんどんと白い砂の中から涌き出てきて未だにぐったりとしていて目を閉じたままの状態であるサンの体を這ってきているのだ。 見た目そのものは、ダイイチキュウにいる蟻と酷似しているが妙に小さ過ぎるのが逆に気にかかる。 それは【塵も積もれば山となる】という、国語の授業の際に習った《ことわざ》が未だに頭にこびりついているからかもしれないが。 無限に白い砂の中から涌き出てくる《それらの群れ》を無我夢中で振り払っているうちに、とても妙なことに気がついてしまう。 そのうちの、ひとつは《それらの群れ》の見た目に対してのことだ。そして、もうひとつは《それらの群れ》の性質についてのことだ。 先程までは光沢のある、まるで陶器さながらの見た目をしていた《それらの群れ》が――サンのある体の部位に入り、こちらへと戻ってきたこと。 更に、サンの口の中に入って少ししてからこちらへと戻ってきた《それらの群れ》の全身は光沢のある黒色へと変化しており、しかもどれもこれも腹部が針をちょっと突き刺せば割れてしまう風船の如く異様に膨れてしまっていることだ。

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