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毒の中に少しの甘さを①

その異様に膨れ上がる腹部を目の当たりにして少ししてから、僕はコイツらの性質に対して、ある考えを抱いた。 詳しい性質はよく分からないものの、コイツは何かしらの方法で瞬時にして《妊娠・出産》を繰り返し行っているのではないかと思ったのだ。そう考えれば、穴を拠点として永遠に増え続けてサンの体を埋め尽くさんばかりに這い上がっているのもどことなく納得できる。 (とにかく、ここから逃げないとっ____) この場にいる限り、この奇妙な風貌をしている蟻達は更に数を増やし続け、やがて《アリジゴク》さながらサンを白い砂浜の中へと引き摺り込むに違いないだろう。 そもそも、この小さな黒い敵の群れはどうしてさっきから執拗にサンだけを砂の中へと引き摺りこもうとしているのか____。 幼虫みたいに小さな容姿をしていて手で潰せばたちまち絶命してしまいそうに思える極小ともいえる敵がこんなにもしぶといとは何故か____。 特にサンだけを狙い続け危害を加える理由が分からない以上、僕ができることは限られてくるということを悟ってしまい肩を落とす。 できることといえば、ぐったりとしていて言葉すら発さないサンがこれ以上砂の中に引き摺り込まれないように、渾身の力を込めてその身を引き上げ続けること。 ____けれども、既に両腕の力は限界に達しつつありビリビリとした痺れが襲ってきている。 あとは、血の気を感じない程にひんやりとして氷の塊や彫刻さながら、冷たく重くなってしまっているサンの身に群がり続ける最中の幼虫みたいな敵達をがむしゃらに払いのけるので精一杯だ。 サンの体が砂の中に埋まらないように引き上げては、その後に彼の体に群がり続ける【アリみたいに黒く極小な敵の群れ】を痺れる手で払いのける――。 その行為は捉えようによっては物凄く単純なことかもしれない。しかしながら、今のこの状況で、しかも僕一人でこの行為を行うのは思ったよりも厳しいものだ。 払いのけても、払いのけても――むしろ僕が必死になって払いのけていく度に黒い虫みたいな極小の敵は繰り返しサンの体を覆い尽くしていく。 これでは、いつまでたってもキリがない。 「も、もう……やめてっ――サンに酷いことをしないでよ!!どうして、大事な仲間であるサンにこんな酷いことをするの!?」 ハッと気がついた時には既に張り裂けんばかりの大声で叫んでいた。 すると、その直後――ある異変が起こる。 まるで僕が弱音を吐くのを待っていたといわんばかりに、或いは僕の心を的確に見透かしたといわんばかりに【アリみたいに黒く極小な敵の群れ】がサンの体から示し合わせたかのように一斉に離れていき、今度は僕の体へと纏わりついてきたのだ。 しかも、その【アリみたいに黒く極小な敵の群れ】は見た目に反して石のように重い。個体としては、そう重くはないのかもしれないし数が少なければ、それほど脅威には感じないのかもしれない。 しかし、あまりにも数が多すぎる。 しかも、今は白い砂浜上にいるという状況だ。必然的に、僕の体は白い砂の中へと引き摺り込まれていく。 (ま、まずい……っ____このままじゃ……) しかも、瞬間的にではなく――じわり、じわりと時間をかけて、ゆっくりとだ。 しかも、体に纏わりつくだけじゃなく、口の中にまで入り込み始めてきた。貝を食べた時に砂まで口に入り込んだ時みたいに何ともいえない嫌な感覚が襲ってきて、僕は咄嗟に口を開けて舌を出し不快感をあらわにしてしまう。 咄嗟に、そんなことをしたせいだろうか。 それから、僕は【アリみたいに黒く極小な敵の群れ】の内の何匹かを、口内で噛み潰してしまうのだった。

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