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よく聞いて。心は【無】じゃないんだよ②

* ふいに意識せずとも体が前のめりになってしまうくらいに大きな衝撃で、ハッと我に返った。 ついさっきまでいったい何があったっけ――と思い出すよりも真っ先に飛び込んできたのは、前方向に倒れ込みそうになってしまった僕の体を必死で支えてくれたサンの鬼気迫る姿だ。 そして、サンにお礼を言おうと口を開きかけたのと同時に一気に先程までの記憶が脳内へと流れ込んでくる。 【白い砂浜の世界】に閉じ込められたこと。 それは【猿田くん】によって仕組まれたことで、僕は彼をしかるべき方法で罰すると同時に救いの手を差しのべなくてはいけないと決心したこと。 【白い砂浜の世界】から抜け出し仲間を救うという目的を達するためにサンの体を自分の手で傷付けてしまったこと。 瞬時にして血の気が引いていく。 いくら《脱出》と《救助》という目的のためだとはいえ僕は仲間であるサンの体の傷つけたのだから____。 「ユウタ、大丈夫か……。また世界が変わったようだ――ここは、最初にいた【揺れる世界】のようだが」 それこそ彫刻のように血の気が引いた僕は、サンの言葉に耳を傾けつつも、おそるおそる彼の胸元へと目線をやる。 【猿田くん】が作り上げた【白い砂浜の世界】から脱出する直前には確実にあった(というよりも僕がこさえてしまった)胸の黒い穴がなくなっていることに気がついてほっと胸を撫で下ろす。 しかし、サンは【白い砂浜の世界】で起きた事を覚えているのかいないのか怪訝そうな目付きで此方を見つめるばかりだ。 とはいえ、【白い砂浜の世界】で起きた全ての事をサンが覚えていない訳ではないのは先程の言葉から考えてみても理解できた。 それよりも気になるのはサンがその後に言った【揺れる世界】というもので、僕は急いで辺りを見回してみる。 【白い砂浜の世界】へ意図的に飛ばされる前までは、僕は電車の床にうつ伏せとなっていたにも関わらず、今は座席にサンと共に向かい合って座っている状態だ。 更に、僕は目線を真横へと移動させて車窓の様子を確認してみることにした。 曇りガラスから見える景色はぼやけていてハッキリとは見えない。けれども、タンポポの綿毛みたいに白くてフワフワした雪がちらちらと降っているのは分かる。 【え~……この車両は予期せぬ大雪のため停車中です。次は《否、不欲助、我》駅……に停車します】 またしても、猿田のアナウンスが車内に響く。しかしながら、前に聞いたものとは違って今回の駅名はよく聞き取れなかった。ただ、何となくだけれどもダイイチキュウにいた頃にも何度か聞いたことがある《中圀》や《韓圀》がある東亜細彌という大陸の言葉の響きとよく似ているような気がした。 電車が停車中なことと、傍らに横たわっているとはいえ呼吸をしているという確認ができたサンがいること――そして車内には僕とサンの他に誰も見えないということもあり安堵していた。 けれども、安堵を抱けていたのはほんの僅かな間だったと、その直後に否が応でも気づかされてしまう。 【尚――次の駅でお降りのお客様方は、この予期せぬ大雪をもたらした元凶が二匹共に降りられます故にくれぐれもお気をつけて、しかるべき行動を行ってくださいますようお願い致します。本日は御乗車してくださいまして誠にありがとうございます】 再び、不気味なアナウンスが流れ――停まっていた電車が走り出したせいだ。 *

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