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白と灰に染まりし、沈黙の公園と時計台①

* 電車が駅に停まったことで、再び次なる行動を起こさなければならなくなった僕とサンは互いに無言のまま駅へと降り立った。 冬の駅というシチュエーションは同じだけれども、一番始めに降り立った駅とは雰囲気が違うと僕は思った。 駅のホームに人がいないのは同じだ。 一番始めに降り立った《朱煌駅にそっくりな場所》のホームから少し離れた場所に広がっていた町は、クリスマスを祝う賑やかで少なからず楽しそうな雰囲気に満ち溢れていた。爬虫類と人間を掛け合わせたかのような奇妙な存在がいたことや、所々違和感のある仲間達がいたことなどを除いても明るい雰囲気はあった。 けれど、新たな駅に降りざるを得ない状況となり《おもちゃの電車》からホームへと出た今は明るい雰囲気に包まれているとは決していえないのだ。 空はどんよりとした灰色の雲に覆い尽くされていて、ちらりちらりと粉雪が舞ってはいるものの、少し離れた場所へと目線を移してみても白と灰に包まれた陰鬱な世界しか映らない。 僕とサンは駅のホームに佇みながら、一通り今の状況を確認するためにと、とりあえずキョロキョロと辺り一面を見渡してみた。 「おい、あれは何というものだ?あのような形をしているものは、少なくともミラージュでは見たことがないぞ……とはいえ、魔物ではないだろうが。あのような姿形をした魔物など目にしたことすらない」 「おかしな形をしているもの?それに、ミラージュで見たことがないもの……サン、それって何処に見えてる?」 僕が尋ねると、サンは眉を寄せて怪訝そうな表情を浮かべて僕の方を見つめていた。 けれど、すぐにふいっと目線を逸らすと指差しながら場所を教えてくれた。 「そ、そんな……っ____沈黙の星時計が……何で、あんな所に。しかも、今は空に星なんか出てないのに……どうしてあんなに輝いて……」 「ユウタ、お前はいったい何をごちゃごちゃと呟いているのだ?私には何が何だか意味が分からないぞ」 「ずっとミラージュにいたサンが分からないのは当然だよ。だって、あれは……あの沈黙の公園にある星時計は、ダイイチキュウにあって――ううん、ダイイチキュウですら存在が消えかけていたものだから。人々の心から消えかけているもの……あれはある争いで犠牲となった魂を鎮めるために創られた時計台。でも、ある災いがあって壊れてしまったんだ。一部分しか残らなかった。それどころか、星時計がある公園は不吉だとかお化けがでるとか言われて取り壊されかけた。住民の説得によって工事中止が決まったけど、中途半端な状態で僕達が暮らしてた町に置き去りにされてた……あの、お化け公園――。行かなきゃ……きっと、あそこに何かがあるんだ」 (これも猿田の記憶が作った世界に決まってる――だって、だって……彼は……) 『あの、お化け公園の星時計の真下で……夜な夜な鬼根塚と会ってるって本当かよ!?お前、何であんなクズの言いなりになってんだよ……良いように利用されているって気付いてねえのか!?』 『まったく、うるさいなあ。何も知らないくせに――ぼくの思いなんて知らないくせに。ぼくは、自分の意思で先生と会っているんだ。だから、君は余計なこと考えずに苦手な勉強でもしていれば?』 (そ、そうだ――確か、その後に怒った犬飼くんが猿田くんを突き飛ばして……猿田くんが怪我をしちゃって……金輪際二人はその話題について話さなくなっちゃったんだっけ……) 僕はダイイチキュウの放課後の教室のロッカーに隠れていた。かつて、いじめっこだった青木によって閉じ込められてしまっていたから。 でも、突如として繰り広げられたのは猿田くんと犬飼くんとの喧嘩だった。 狭いロッカーの中でハラハラしながらも、僕は何も言えずにただ石みたいに固まっていた____。 そんな気まずい過去の光景を思い出しながらも、僕はサンと共に《沈黙の公園》を目指して、おぼろげな記憶を頼りに吹雪に包まれる町中を懸けて行くのだった。 *

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