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白と灰に染まりし、沈黙の公園と時計台③

* 「いったい、ここは……何なんだ?こんな場所は……ミラージュでは見たことがない」 「ダイイチキュウで暮らした筈なのに変なこと言うなって思われるかもだけど、僕と想太が昔一緒に来た時のお化け公園の様子とは全然違う____ような気がする……でも、何でそう思うのかは、よく覚えてないんだけど。少し、辺りを見てみてもいいかな?」 かつて、ダイイチキュウで暮らしている時に町民から【お化け公園】と囁かれていた瓜二つな場所へと辿り着いた僕とサンはキョロキョロと不思議そうに辺りを見渡しながらも、とりあえずは周囲を一通り探索してみることにした。 ダイイチキュウで暮らしていた経験のある僕の方がサンよりも【お化け公園】について理解していなければならない筈なのだけれども、正直あまり自信がない。 それは、かつてダイイチキュウにいた頃にあまり訪れた記憶がないせいでモヤがかかったかのように曖昧なせいだ。 そうとはいえ、何かが喉につっかえているような――妙な感覚がある。 慎重な足取りで、それほど広くはない廃公園をぐるぐると歩き回り、朧気な僕のかつての記憶を必死で照らし合わせてみる。 真上に広がる空には相変わらず分厚いカーテンさながら灰色の雲が覆い尽くしている。 けれども、いつの間にやら僕とサンが気付かないうちに駅に降り立った時にはなかった霧が出始めていたため不気味さに拍車をかけてしまっている。 そして、ようやく先程から僕を散々迷わせていた《魚の骨が刺さったかのようなむずむずした違和感》が判明した。 「僕が知っているお化け公園の遊具と……今いるこの場所の遊具の位置が全然違う。本来なら、ここには……滑り台があるはずなのに____」 僕の記憶の中では、公園のちょうど中央に【沈黙の星時計】という微笑を浮かべ両手で黄金に輝く星を持つ天使を象った時計台があるはずであり、これに関しては位置的な間違いはない。 ただ、その黄金の星を持つ天使を象った時計台はかつて起きた争いのせいでほとんどが破壊されてしまい、【両手】と【黄金の星】の部分のみが残っているという違いはある。 しかしながら、それよりもむしろ【沈黙の時計台】の周囲を等間隔で取り囲むように設置してある《他の数種類ある遊具》の位置がすっかり正反対となってしまっていることの方が僕を妙に不安にさせた。 そんな風に戸惑いの色を浮かべて突っ立っている僕の心を見透かしているように、白く滑らかな肌を持つ彫刻の天使は、まるでイエス・キリストを見守る聖母の如く無機質ながら穏やかな瞳を此方へと向けてくる。 けれど、それが逆に皮肉だと思えてしまった僕は何ともいえぬモヤモヤとした気持ちを押し殺しながら、本来の思い出の中では《滑り台》が目の前にあるはずなのに、今――眼前に存在する《砂場》へと足を片足を伸ばしてそのままズブズブと進んでいく。 不安を抱きながらも、そうした行動をとったのは《砂場》の片隅に、キラキラと光る何かを見つけたからだった。 さっきよりも更に近づいて覗き込んでみると、ダイイチキュウで大多数の女の子達を一目で虜にしていた、いわゆる【ローズクォーツ】と呼ばれる桜色の宝石が砂の中に半分ほど埋まっているのが分かる。 (何で、ダイイチキュウにしかない筈の宝石が存在しないはずのミラージュに……ローズクォーツがあるんだろう――でも、とても綺麗だ……) あれほど夢中になって、うっとりと見惚れていたダイイチキュウで暮らしている女の子達の気持ちが今は痛いほど分かる。それも、もう遅いのだけれど____。 それはともかくとしても、桜色の宝石に抗いがたい興味を抱いた僕は、それを砂の中から取るべくさっきよりも更に身を乗り出してしまうのだった。 だからこそ、僕らに向けられる【静かな気配】に、すぐには気付けなかった。 その時の僕は、桜色の宝石の存在という《個》の違和感にばかり気をとられていて、《全体》という周囲の違和感に気付けていなかった。 【それ】は、僕らからその身を隠して――砂場の向かい側にある滑り台の中から息を潜めつつ、こちらの様子をじっと伺い続けていたのだ。 未だに警戒心を緩めずにいたサンですら、その【静かな気配】には、すぐには気付けない。 【それ】は奇妙な公園という風景の一部として、音もなく巧妙に溶け込んでしまっていたのだから____。 *

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