685 / 713

白と灰に染まりし、沈黙の公園と時計台④

* 僕らが、ようやく【乱入者】の存在に気付いたのは――すぐ近くから何かがすすり泣くような儚げな声が聞こえてきたからだ。 とはいえ、雪が風に舞う音で吹き消されてしまっていたため、すぐには気付けなかった。 それに、視界も悪い____。 寒さはそれほど感じられないにも関わらず、僕とサンの平常心をじわじわと蝕み奪い続けるのは、むしろ視界不良と得体の知れない場所に放り出されたという不安のせいかもしれない。 けれども、不安の強さは僕よりもサンの方が遥かに上だ。 いくら得体の知れない場所とはいえ、この公園が何処なのか――更にどういう場所なのかということはダイイチキュウで暮らしていた時に何度か訪れた経験があるため、ずっとミラージュで生きてきて【公園という存在すら知らないサンに比べれば遥かにマシだ。 たとえ《沈黙の公園》に対して遊具の位置が違うなどという微妙な違和感を覚えたとしても、泣きごとなんて言っていられない。 多分、僕と同じように――サンだって不安を感じているのだ。 サンも、愛する引田や他の仲間達と会いたいに決まっているのだ。 どんなに平静を装っているように思えても、ブルブルと小刻みに震え続ける弓矢を持つ手が――それを物語っている。 (こんなの……いくら普段から冷静で、それにミラージュにおいて戦い慣れたせいで遥かに僕よりも度胸のあるサンだって――不安に押し潰されそうに決まってる……ただ、サンはそれを表に出そうとしないだけ____) 改めて、そう自覚した時に、僕が次に何をするべきなのかハッキリと分かった。 「サン……ここにいてもらってもいいかな。僕、あの滑り台まで行って……ナニがいるのか確かめてみるよ。ただ、ここにこうしてジッとしているだけじゃ……前に進めないしね」 「ユウタ……お前は何を言っている!?あんな気味の悪い場所に行くなど、まんまと敵の手中に嵌められに決まってるではないか!!」 「____うん。僕らを誘き寄せるために敵が仕掛けた罠だって、鈍い僕でも――とっくに気付いてるよ。でも、僕は誠や他の皆を救うために、あそこに行かなきゃいけない。だから、サンにはここにいてほしい。もしも、何かあったら、今度は僕がサンを守るから……って、僕じゃ頼りないよね?」 サンは他にも何か言いたげだったが、眉をひそめ、少しだけ考えてる素振りをした。 そして、少ししてから無言でコクリと頷くと「好きにしろ。ただし、後悔しても……責任など取らないからな」と呆れた表情を浮かべつつ、ふいっとそっぽを向いてしまった。 あんなにサンに対して偉そうなことを言ってしまった僕だって、得体の知れない雰囲気を漂わせる場所へ向かってゆく恐怖と不安に襲われるのが全くといって平気なわけじゃない。 どっ、どっ――と早鐘のように基礎的なリズムで鳴り続ける心臓は、その激しさを増すばかりだし、両足だって震えがさっきから止まってくれない。 それに、【滑り台】へと近づいて行く度に――得体の知れない吹きすさぶ風に混じった、か細い悲鳴が徐々に大きくなっていき、ただでさえ恐怖に震える僕に容赦なく纏わりついてくるのだ。 そして、とうとう【滑り台】の目の前に着いた時に僕は一瞬目を疑ってしまった。 くねくねと曲がりくねり、長い筒状となっている滑り台の、すべり出口の先端部分に――ちょこんと座っているのは予想だにすらしなかった物が座っている。 むしろ、座っているというよりかは置いてあるといった方が正確なのかもしれない。 空中を激しく舞い続ける雪のせいで視界不良となり、すぐ側まで近づいて行くまでは気付けなかったけれど、滑り台の先端には【黒い毛に覆われ両目は黄色いという奇抜なウサギ】がちょこんといるのだ。 【黒毛で黄色い目のウサギ】は、まるで縫いぐるみのように微動だにしない。 それなのに、すすり泣きのような声は相変わらず僕の耳を刺激してきて尚も不気味さから抱かずにはいられない不安定な恐怖心を増長させてくる。 それから、少し後のことだ。 【黒毛で黄色い目を持つウサギ】に目を奪われ、まっすぐに滑り台を凝視していた僕の視界の端に不可解なものが映る。 黒い小さなものが、ふっと視界の隅に現れては――逃げるかのように上に移動したり、はたまた斜めに移動したりと予測不可能な動きをしながら唐突に消え去ってしまう。 しかも、その動きは特別といって速い訳ではなく目で追えるくらいにはゆっくりな動きのため、尚更不気味に思えてしまう。 視界の隅に映る黒いものは、小さな円形から次第に大きさを増していき、ぴょんぴょんと飛び跳ねるウサギのような機敏な動きで現れたり消えたりを繰り返し、さっきからずっと困惑しっぱなしの僕を容赦なく翻弄させる。 ついに、それを捕まえたぞ____と思い手を伸ばした時には既に遅かった。 ハッと我にかえった時、すぐ目の前にいたのは、白い牙を剥き出しにしつつニヤリと笑う【黒毛で黄色い目を持つウサギ】の姿____。 さっきから気になりつつも触れるのを心の奥底では本能的に拒否していた【黒毛で黄色い目を持つウサギ】を、自分の意思とは関係なく――無理やり触れさせられていたのだ。 つまり、敵の罠にまんまと引っかかったことだと気付いた時には既に【黒毛で黄色い目を持つウサギ】の鋭い牙が首筋に突き刺さり、瞬時にして僕から離れて後方へと飛びはねてから軽やかに着地した。 すると、ついさっきまでは雪のように真っ白だった牙を赤黒く染め、誇らしげに、ニタリと笑みながら、悲痛な表情を浮かべる僕をその黄色い蛍光色のマーカーのように目立つ二つの瞳で凝視してくるのだった。

ともだちにシェアしよう!