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再会、祝福――そして新たなる戦いが僕らを待っている①

* * * ダイイチキュウでの目まぐるしい日々に溺れていた夏の時期____。 毎日のように、近所の公園で耳にしていた希望の音楽ともいえるその旋律は僕らが足を一歩一歩《出口》へと踏み出していく度に、その不協和音さから滲み出る狂気さを増していく。 (でも……もうすぐ____もうすぐで……出口にある、あの《飛天》と《翔天》の彫像が見えてくるはず……っ……) 僕の読み通り、その二つの彫像は――まるで《公園の出口》を守るかのように、それぞれが互いに横向きとなって門柱のすぐ側に建っているのだ。 僕の右側にあるひとつの石像は、開いた手を真っ直ぐ前に向かって伸ばしている。つまり、向かいにある、もうひとつの石像へ向かって開ききった手を伸ばしているという構図となっているということだ。 すぐ脇にある石の台座には【飛天】と彫ってあるのが、少し離れているここからでも見える。 そして、その向かい側にあるもうひとつの石像は台座の上にしゃがみ込みながら両目を瞑り、更には両手を固く握りしめて耳を塞いでいるという何とも奇妙な構造となっている。 向かいにある、もうひとつの石像のように、すぐ脇にある石の台座には【翔天】と彫られているのが見えている。 けれど、二つの向かい合う石像をまじまじと見つめて気をとられている時間はない。 本当の姿をさらしたせいで、すっかり弱気になり、とうとう黙り込んでしまったサンを背負いつつも、此処から出ようと《公園の出口》まで、あと数歩というところに着いた直後のことだ。 突如として、今まで辺りに鳴り響いていた【夏の朝に公園でかかる音楽】がピタリと止んだかと思うと、今度は僕の鼓膜を破ってしまいかねないのではないかというくらいに凄まじい銅鑼の音が聞こえてきた。 幸いにも一度しか聞こえてこなかった銅鑼の音だったけれど、まるで、それが嵐の前の静かさだといわんばかりに【公園】に静寂が訪れた。 今まで聞こえていた鳥の囀りも、爽やかな風が吹く音も――蝉の声も銅鑼の音が聞こえてきた途端に失われた。 けれど、辺りを支配していた静寂も少しの間だけだった。 「え……っ…………サン、石像が……」 辺りの静寂を引き裂いたのは、誰でもない紛れもなく僕の動揺した声だ。 けれど、理由もなくそんな腑抜けた声を出したわけじゃない。 時間にして三分も経たない程度の間に、目の前にあった筈の二対の石像が忽然と消え去ったのだから――無理はない、と思う。 「…………」 僕の背中におぶさり、【本来の自分と理想の自分の姿】という存在理由を脅かしかねない問題に怯えて、雨に打たれる子犬のように震えながら縮こまっているサンは、相変わらず無言のまま耳を貸してさえくれないため、頭で今のこの状況を整理して行動に移すしかないと僕は思い直す。 そして導き出した答えは、とにかく消えた石像のことは一度置いておいて、この公園から出てみるしかないというものだ。 もちろん、公園に出てから何をすべきなのかは明白なのだから、今更あれこれと悩んだところで、どうしようもないという思いを抱いたのもある。 ともかく、僕は消えた石像のことを一時的に忘れて《公園》から一歩外の世界へと足を踏み出した____ ____筈だったのに。 今度は、出口から一歩外へ出た途端に強制的に《公園》の滑り台前に戻された。 今までは、《公園》の滑り台前へ強制的に戻されたとしても《町中》だった筈なのに、ここにきて僕らの行く手を阻むべく敵が攻撃を仕掛けてきたということになる。 だからこそ、僕は再び《公園の出口》にサンと共に来た後に今度は目を固く瞑り、くるりと背を向けた。 そして、僕はサンを背負ったまま後ろ向きで《公園の出口》から《町中》へと向かって駆け出したのだ。 目を閉じているせいで、恐怖心は今までよりも遥かに強い。 でも、そのおかげで後ろ向きで駆け出して《町中》を進んでいくということに対して集中できるという利点もある。 視覚という絶対的ともいえる感覚を失うのはもちろん怖いけれど、それよりも僕は仲間であるサンを信じている。 サンが、いずれ自分の存在理由を思い出して僕と共に他の仲間を救うという目的を達成するために協力してくれると信じ続けている。 だからこそ、僕は後ろ向きで尚且つ目を瞑りながら《得たいの知れない町中》を駆けていくもいう無謀ともいえることをしているのだ。 ただ、未だに二対の石像が現れる気配は微塵もない。 それだけが、気がかりだ____。

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