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再会、祝福――そして新たなる戦いが僕らを待っている③

僕らがダイイチキュウで暮らしていた時に教科書の中や、テレビの中――または、新聞紙の中で何度も見た記憶のある【鎮守の木】____。 【ダイイチキュウ】という箱庭世界のうちのひとつという存在の中で、先生やコメンテーター、そして記者達が何度も訴えていたのは《かつて恐ろしい自然による災害に飲み込まれたせいで、その木は姿形を変えてしまった》ということだ。 口に出すことすら憚れるくらいに、大勢の命をある日突如として奪い、今後もその残酷な現実を受け入れざるを得ない残されたダイイチキュウで暮らしていくしかなかった被害者に近しい人々にとって、その直後に大きな稲妻に打たれて変形した木は忌まわしいものだったのかもしれない。 まるで、開いたハサミの刃のように二股に別れた特徴的な木は、僕らがダイイチキュウに住んでいた頃にも、特に子供の興味引くには充分過ぎる存在で通学区域の中でも噂に困らないくらいには住人達から周知されていた。 ____ ____ 【あの木の下にはずっと前に起きた災害でギセイになったヒト達の骨が埋められてて通り過ぎようとすると、どこからともなく呻き声が聞こえてくるんだって~…………】 【えぇ~、こわーい!!!】 【ねえ、でも……ちょっと待って。あたしのママから聞いた話と、ちょっとだけ違うんだけど。なんかね、どこからともなく呻き声が聞こえてくるのは同じなんだけどさ、そのあとチョキチョ木が植えられてる土の下からヒト型の石が二つ現れてモタモタしてるとそのまま引き摺りこまれちゃうんだって!!】 【えぇ……っ……それは、もっと怖いじゃ~ん!!でもさ、何か可哀想じゃない?だって、このチョキチョ木の下には、ずっと前に――それこそ、うちらのママやパパ達が子供の頃に怖い目にあってお空にいっちゃったナキガラが埋められてるんでしょ。平和な未来がきても、こんな悲しくて暗い噂がたてられてちゃ安心して、お空になんて行けてないと思うんだけどなぁ____】 【だけどさ、そんな怖い噂があるのに、願いが叶う木なんて本当かな。あーあ、がっかり。クラスで一番かっこいい誠くんと素敵な関係になれるのかって、チョキチョ木のおまじないで叶えてもらえると思ったのに。もう、やーめよっと】 ____ ____ (あの時女の子達グループのうちの女の子は、チョキチョ木の何でも願いが叶うおまじないの噂について、嘘じゃないかってガッカリしてた……でも____) 閉じた瞼の裏に、かつてダイイチキュウの《男子小学生》として過ごしていた日々の通学路での《朝のひととき》の思い出がよみがえる。 まだ、誠にも引田にも知花とも出会っていなかった――黒いランドセルを背中に背負い、カタカタと左右に揺らしながら遅刻しないよう爽やかな空気を胸に吸い込みながら学校まで夢中で駆けていった、今はなき懐かしい思い出___。 (僕は、そうは思わない……確かに子供がおしゃべりするのは出鱈目な噂がほとんどかもしれないけど、全ての噂が嘘とは限らないじゃないか……あの、チョキチョ木にまで行ければ――そして、あのヘンテコな木の枝にこれをかければ、僕が願ってる思いは、きっと____) 「……タ……ッ____ユウタ……いったい何をしているんだ……通り過ぎるところだったぞ……まったく、しっかりしろ!!」 「よ、良かった。それでこそ、僕が憧れてるサンなんだよ。本当は、どんな種族で、どんな姿かなんて、そんなの関係ない。僕は、心が強いサンを今までも、もちろん今でもずっと尊敬してる……おかえり、サン!!」 こうして、本当の心の強さを取り返したサンの様子を目の当たりした僕は今まで《チョキチョ木》へ向けて通学路を後ろ向きで駆けて行っていたが、もう大丈夫だと判断して普通に前を向いて目的地まで駆けて行った。 敵の気配が微塵も感じられないことに対して、一抹の不安を覚えつつも遂に《チョキチョ木》の目の前まで着いたため、開かれたハサミの先端の如く二股に別れた枝から蛇のような形で垂れ下がっている太い蔓へとオーナメントを順番にかけていくのだった。

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