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再会、祝福――そして新たなる戦いが僕らを待っている⑤

何故、チョキチョ木の幹の内部から青白く光を放つ正体不明の赤ん坊が突如として出現し、そのまま、ころりと地面に転げ落ちてきたのかは分からない。 けれども、僕はその不思議な赤ん坊を目にした途端に何ともいえない既視感を抱いた。そして、本来ならばそんな悠長なことはしていられない筈なのに何故か分からないが懐かしさからくる高揚感を覚えて、その不思議な赤ん坊から暫く目が離せずにいた。 (この赤ん坊は、紛れもなく僕だ____まだ、人生を過ごしていく中で立ち向かっていかなきゃならない苦しみや挫折……何かを失いかけていく度に直面する虚しさや悔しさを知らない……無垢な存在……ただ、ひたすらに未来に対して希望だけを抱いている神聖な……存在____) ほぇぇ、ほぇぇ……っと――神聖かつ謎の赤ん坊の僕は泣き続ける。 その泣き声は、とても力強い。 その泣き声を聞き続けるうちに、克服しきったと思っていたにも関わらずに、かつてダイイチキュウで学生時代を送っていた頃の悪い考えグセがぶり返してしまう。 それというのも、僕が《四つのオーナメント》をチョキチョ木にかけてから暫く時間が経っているのに、仲間の姿はおろか周囲には(不思議な赤ん坊が出現したこと以外は)特に異変が起きていないせいだ。 「僕、間違ってたのかな___ただ、皆に会いたいだけなのに……っ…………」 以前と違って、涙は何とか堪えたものの無意識のうちに弱気な言葉を吐き出してしまう。すると、それに反応するかのように再びサンが無言となってしまい、それだけでなく彼の体が一気に重みを増してしまった。 まるで漬物石を背負っているかのような、その異様な感覚に再び危機感を抱いた僕はつい背後へと気を取られ、慌てて振り向きかけた時のこと。 ふいに____、 「ち、ちょっと何してんの……っ……優太くん、前見てよ……前……っ……!!」 「こんな状況で前を見ていないだなんテ、ユウタさんらしくないですネ!!」 「でも、まあ……そんなところもマコトの恋人くんの魅力的なところなんじゃないの?あ、でも……勘違いしないでよ?ミストの魔法ばかりあてにしないこと!!」 すぐ近くから聞こえてきた、懐かしい仲間達の声。けれど、相変わらず姿は見えないままだ。 あまりの嬉しさから、堪えきれずに大粒の涙を溢れ出し始めた直後____、 「しばらく会わないうちに、またお前の悪い癖が出てたのか。だが、たとえそうだとしても、これからはそんなことをしている暇はない。待たせたな、優太____」 今度は狂おしいほどに、愛おしい誠の低音ながらも、どこか柔らみを帯びた声が聞こえてきて、僕はくしゃっと顔を歪めながらも辺りを見渡す。 「まったく、いったいどこを見ているんだか。あ~、もう何してんの?早く優太くんの手を引いてあげなよ。やけどしそうなくらい、あっつい仲を見せつけられてるみたいで悔しいけど、優太くんをうまく引っ張れるのは、誠しかいないんだから……っ____」 引田の呆れ果てている声が、すぐ近くの方から聞こえてきて、それに気を取られて僕は右斜め上の方を反射的に見上げる。 すると、その直後____ぐいっと左斜め上の方から強い力で引っ張られる感覚に陥ったため訳が分からず、目を丸くしつつもじっと凝視した。 すると、いつの間にか左手首に太い蔓が固く巻きついていることに気がついて、途徹もない驚きのあまり、顔面蒼白となり「ひぃっ……」という、言葉にすらなっていない悲鳴をあげただけでなく咄嗟に目を瞑ってしまう。 それは、敵の攻撃によるものだと思い込んでしまったせいだ。 いくら大切で再会したくて堪らない仲間達の愛おしい声が聞こえてくるとはいえ、肝心な皆の姿が見えなくて声のみが聞こえてくるといった現象は、たとえどう誤魔化そうとしても、やはり不安が拭えない。 そして、そのような状態に陥っているのは――かつてダイイチキュウで通っていた小学校に伝わっていた《チョキチョ木》に関する恐ろしい噂話に少なからず影響を受けているせいだと本能的に感じた。 つまり、サンのように姿その物が【かつての思い出の中の自分】にされてしまっているのではなく、僕の場合は外見や肉体的な面はダイイチキュウで過ごしてきた時とミラージュに飛ばされている今と全く変わらないものの、内面や精神的な面のみが【かつてダイイチキュウの小学校に通っていた思い出の中の自分】にされてしまっているのではないかということだ。 けれど、そんな僕の弱々しい不安を拭うように左手首に絡まったままのチョキチョ木の蔓は絡まったまま唐突に半端なく強い力で今度は僕の体をぐいっと引き寄せる。 引き寄せられた先には、何もなく――そもそも何も見えないはず。 愚かで弱々しい僕は、そう思い込んでいた。 「俺は____いや、俺達は……ここにいる。優太の側から、離れたりはしない。」 どうして姿が見えなかった筈なのにここにいるのか――だとか、そもそも何故チョキチョ木に閉じ込められていたのか――とか些細な質問が瞬時にして頭の中を埋め付くしたけれど、それが言葉として出ることはなかった。 ただ、ひたすらに愛おしい仲間(今は恋人というべきか)と再会できて、喜びに満ち溢れ情けないことにうまく頭が回らないからだ。 そして、それは緊張と喜びから石みたいに固まってしまう僕を強く抱き締めてくれる誠を目の前にしても同じこと。 すると、ふいに唇に柔らかな物が軽く押し当てられたことに気付いた。 時間にすると、それは十秒も満たないくらいの短いキス。 でも、僕はこの誠らしいサッパリとしている今のキスが一番好きだ。 だから、お返しをした。 もちろん、時間をかけないけれど飛びっきりの愛情を込めたサッパリとしたキスを。 と、僕と誠がイチャイチャしている間に――いつの間にか他の皆も姿が戻っていたのか、無言だけれども何か言いたげに此方をじっと見つめていることに気付いて、あまりの恥ずかしさから慌てて誠から離れる。 『ノロケとか勘弁してよ』といわんばかりに、呆れ果てて僕と目が合った瞬間にパッと視線を逸らす引田。 『もっと、やっちゃえばいいのに……そうじゃないと、つまらないじゃん』といわんばかりに口元をニヤニヤさせつつも、暖かい目を此方へと向けてくるミスト。 ライムスに至っては、元々真っ青な姿というのに林檎みたいに真っ赤になりながら、まるでダイイチキュウのゼリーのようにプルプルと体を揺らしている。 ただ、僕が皆に言いたいことは――たったひとつ。 「皆……おかえり!!」 かつて、ダイイチキュウの小学校でした朝の「おはようございます」の挨拶のように大きな僕の声が辺りに響き渡るのだった。

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