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ガーゴイルたちとの戦い ①
* * *
「あ~、もう……再会を喜ぶのも分かるけど……皆、少しは周りの様子をしっかり見てよ!!」
それから少しして、久しぶりの再会を素直に喜ぶばかりの僕らを一喝したのは、しっかり者である引田の声だった。
そのお説教にハッと我にかえり、ほぼ同じタイミングで他の仲間達が引田の方をおそるおそる見てみると、今にも石にされかねないような鋭いメデューサのような力強い瞳で此方をじっと見ている。
「ど、どうしたの……そんなに切羽詰まった顔をして……って____」
あまりの引田の剣幕に、困惑しながらも、おそるおそる彼が無言で差し示した場所へと目線を移す。
目線を向けたその先には【チョキチョ木】が佇む光景が広がっているだけのように、僕の目には見える。
けれど、それはあくまでも僕と引田が注目していた場所が全く違っていたため異変に気付けなかっただけのことだと、ようやく身を持って知れたのは、それから少ししてからのことだ。
僕らが見ていたのは、チョキチョ木のまん中から上あたり。けれども、勘の鋭い引田はチョキチョ木の真ん中から下らへんを既に注意深く観察していたのだ。
引田が注目している箇所に、ついさっぎまでは確実になかった筈の木札が、いつの間にか二つ――ちょこんと向かい合って立っていることに彼以外の一行は、ようやく気がついて不安と動揺を顕にする。
いや、正確にいうと明らかに動揺を顕にしたのは僕と誠の二人だ。ミストやライムスは、目の前にいきなり出現したそれに対して驚いてはいるものの、少なくとも僕と誠と比べても際立って不安を顕にはしていないように思える。
少し考えてみて、その理由が何となくだけれども分かった気がした。
僕と誠は、突如として現れたチョキチョ木の真下にある木札が何の意味を込められて土に埋められているのか知っている。ダイイチキュウでも、学校の中庭で行われた植樹会で実際に目にしたことが何度かある。
だから、本来ならば《植物の名前を絶対に忘れないため》に、その木札はチョキチョ木の字が書かれていて《名札》として埋められているはず____。
けれど、その木札にはチョキチョ木の文字は書かれてはいない。
かといって、何も文字が書かれていない訳でも――ましてや、だらだらと埋めつくしてしまうくらいに多量の文字が書かれている分けるでもない。
たった、二文字____。
それも、僕と誠――そして引田にとって見慣れたダイイチキュウでいうところの漢字二文字が、それぞれの木札に書かれていることに気付いた。
「これらを見て、再会を喜ぶばかりじゃいられないってこと――楽天的な優太くんはともかく、誠なら分かるよね?」
「ああ……確かに引田の言う通りだ。これからは、先のことを心配しなければ____」
そう会話をしながら、引田と誠はキョロキョロと辺りを見回して身構える。
すすっ__と彼らの元へと近づくと周囲に聞こえないくらいの小声でこう囁きかける。
「引田、誠……いくら楽天的な僕でも、これから注意しなきゃいけないことは分かってるよ。これから、敵がくるんだよね……あの公園にあった石像が……二つ____」
それを聞いた直後の引田と誠の顔を、僕はきっと生涯忘れることはないだろう。
何せ、二人とも同様に鳩が豆鉄砲をくらったかのような――まぬけな顔をしていたのだから。
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