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ガーゴイルたちとの戦い②
「まさか、怖がりな優太くんが……あの噂を覚えてたなんて思ってもみなかった。でも、それなら話が早いから有難いんだけど……それはそれとしても、何か変なんだよね。変に静かすぎる____」
「引田の言う通り、確かに変だ。今までに遭遇してきた敵達ならば、とっくの昔に何かしらの攻撃を仕掛けてきてもいい筈だ――それなのに未だに何のリアクションもないのは……おかしいとしか言い様がない」
ひそひそ声で会話を続ける僕らの背後に、ふっと影がさす。
そのため、咄嗟にほぼ同時のタイミングで背後を振り返った僕ら三人____。
そこには、今までにないくらいに眉間にシワを寄せて怒りをあらわにしているミストが腰に両手を当てながら立っていた。そのあまりの迫力に、今まで囁き声でしていた会話が途切れてしまう。
「三人共…………ミストとサンとライムスをほったらかしにして、何をコソコソ話してるの?それって、三人にしか分からないダイイチキュウのことだから?確かにミスト達はダイイチキュウのことは、あまり知らない。でも、それって……すごく悲しいよ。ミスト達だって仲間でしょ?仲間に……隠し事はないんだよね?」
顔では怒りをあらわにはしているものの、ミストは僕らに合わせてヒソヒソ声で自分の思いを伝えてくれた。
ここまで、ミストが怒りをあらわにするのは初めてだ。どちらかといえば、今まで旅をしてきた中で怒られるのはサンによってだった。
三人揃って、肩を落としながらミストへと先ずは謝罪する。そして、ダイイチキュウの小学校で瞬く間に有名となった《チョキチョ木》の噂についてライムスを含めながら簡単に告げたのだ。
ミストがキョトンとした顔をする。
ダイイチキュウでの噂話をミストにしたところで、何が何やら分からないから、そんな反応を示しても無理はないと声には出さないものの、僕も誠も引田までもが納得して三人揃って目の動きと頷くといったジェスチャーのみで同意し合った直後のことだ。
ミストが、意外なことを口にしたのは____。
* * *
まさか、ダイイチキュウだけでなくミラージュにも人々の心を惹き付けて虜にしてしまうような怪しげな噂(話)が存在しているとは思わなかった。
しかも、ミストの話によればダイイチキュウのオカルト的な噂とミラージュでの【ヤ・イラ・ナホ】といわれる話は、ダイイチキュウのものといくつか共通点があるとのことだ。
まず、【気象や時間】といった制限があること。
ダイイチキュウでの《チョキチョ木》の噂では、必ず満月が出ている日であること。そして、夜でなくては何も起こらないことが当てはまる。
そして、次には【人数の制限】があることだ。
《チョキチョ木》の噂では、一人ではなく二人以上で訪れないと何も起こらない。
そして、最後の共通点は【地中から得たいの知れない恐ろしい存在が現れて今いる所とは違う場所へと引きずりこんでしまう】といった点だ。
____と、ここまで神妙な顔つきでミストの話を黙って聞いていた僕だったが、ふと肝心なことを聞き忘れていることに気がついた。
「ミスト……君が話してる最中に邪魔して、ごめん。ダイイチキュウと同じように、周りの人々の心を惹き付けるような噂があることは分かったけど……ミラージュでいうところのそれの詳しい内容って、いったいどんなものなの?」
「あ、そっか……ええっとね____それは、ある村でのこと。満月の夜に二人以上でひときわ大きな【マルジュ】と呼ばれる樹の真下へと足を踏み入れると、そのまま地中から×××××が現れて……そ…の…ま…………きずり……れる……」
ミストは、至って真面目な顔付きで教えてくれていた。特に、僕ら三人に対してミラージュで伝えられているという噂話を話すのが苦痛ではないようだというのに、その内容を話し始めて少しすると何故だか僕は彼の声が聞き取りにくくなった。
まるで、ダイイチキュウにいた時に何度か経験したことのある《耳なり》のような。はたまた、乗り物の中で時々起こるツーンと詰まってしまうような不快な感覚に襲われて咄嗟に、すぐ側にいる誠と引田へと視線を移す。
二人共、言葉にはしないものの変だと感じているのか、しきりに辺りを気にしていたり、引田に至ってはミストに勘繰られないように注意深くだが耳を何回か軽く触ったりしている。
(やっぱり……あの二人も僕と同じように耳に違和感を覚えてるんだ……でも、どうして____)
と、ざわざわと心の奥深くから嫌でも涌き出てくる不安を払拭させるために、半ば無意識に空を見上げた直後のこと____。
つい先程まではなかった新たな異変が、僕らへと襲いかかるのだった。
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