696 / 713

ガーゴイルたちとの戦い③

引田と誠が、二人共――顔を苦しそつに歪めながら言葉には現さずにだけれども、僕のズボンの右ポケットを確認してみてと必死で示している。 誠は、目を僕のズボンの右ポケットへと向けて異様なくらいに凝視してからこっちをジッと見つめている。 引田は、もっと分かりやすく自分が履いているズボンの右ポケットをポンポンと何度も繰り返し叩いて、誠と同じように僕の方を見つめてくる。 そして、ようやく気が付いた____。 ついさっきまで大事にズボンの中に仕舞っていたはずの【ベル】のオーナメントが、いつの間にか忽然と何処かへと消えてしまっていること。 そして、この不快な耳鳴りのような音は――その【ベルのオーナメント】が僕ら三人に対して発している、ある種の攻撃なのではないかと____。 (これは……想太を象徴してるベルのオーナメント____つまり、今……僕らに対して攻撃しているのは……っ……) またしても、僕の悪い癖が出てしまった。 今までダイイチキュウでずっと共に暮らしてきた、分身といってもいいくらいに信頼してきた想太がそんなことをする筈がないと分かりきっているにも関わらず、前を向こうともせずに言い訳ばかりして、今更気にかけても仕方がない過去のことや、ネガティブな感情に支配されるあまりに【考えてもどうしようもないこと】で頭を埋め尽くされてしまうのだ。 そんな、情けない僕の姿を間近で見ていたからだろうか。 頬に、軽い衝撃が走った。 しかも、ハッと我にかえった僕に向けられた厳しい眼差しは引田のもので唖然とするばかりだったが、やがて彼が僕の頬を(軽くだが)叩いたことに、ようやく気が付いたのだ。 引田は、唖然とする僕に対して何も言わない。そして、彼の隣にいる誠ですら無言で僕らを見守っていた。 引田は言葉にはしなかったが、彼の涙目が何故仲間である僕に対して頬を叩いたのかということを物語っていた。 言葉にはせずとも今まで信頼してきた想太という存在を疑うような素振りを見せた僕に対して心底呆れたのだ。そして、そんな僕の姿を引田は見ていられず反射的に手が出てしまったのだ。 そういえば、引田は学校へ普通に来ていた頃はどちらかというと引田と仲が良かった。だから、尚更――今の僕がしてしまった愚かな行動が許せなかったのだろうと僕は今更ながら後悔した。 「ご、ごめん……っ____引田。僕、君の気持ち……想太に対して抱いてる君の気持ちを考えていなかったよ。優しくて、自分のことよりも他人のことを思いやれる想太が……こんな攻撃をしてくるわけない」 目の前にいる引田の顔が、涙のせいで歪む。 それを眺めているうちに、今いる【公園】の――ある違和感に気付いた。ここに来たばかりの時には、なかった筈の極めて些細な異変だ。 それを確かめるべく、僕は改めてぐるりと辺りを見渡してみた。 風が吹いていないにも関わらず、ブランコが左右に揺れている。 人が乗った状態で動くと、上下に揺れる馬の遊具も同様に誰も乗っていないのに激しく揺れている。 更に、砂場にも誰かがいる気配すらしないというのに埋まっているバケツやオモチャ達が勝手に動いているのだ。 「クリスマスオーナメントのベルは喜びの音を鳴らす。そして、あれが鳴ってから異変が起き始めた____っていうことは、つまり…………」 引田が、ぶつぶつと独り事を言い終えると、それから少ししてからハッと何か気付いた様子で息を呑む。 すると、その直後――突如として辺りが一瞬、本能的に半目にせざるを得ないくらいに眩しい光に包まれてしまう。その青白い光は、ダイイチキュウで暮らしていく中では見たことがないくらいに幻想的だったのだが、すぐに消えてしまった。 それから少し経った後に、いつの間にやら僕達は【チョキチョ木が立っていた場所】から一瞬にして【公園の入り口】に何者かから無理やりワープさせられていることに気が付いたのだ。 その入り口には、【飛天】と【翔天】の石像があるはず____だった。 しかし、確かに【公園】に連れて来られた時にはあった筈のそれらは忽然と姿を消している。 バサッ………… 胸騒ぎを覚える嫌な音が真上から聞こえてきて、僕らは――ほぼ同じタイミングで警戒しながらもそちらを見上げたのだった。

ともだちにシェアしよう!