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ガーゴイルたちとの戦い④

最初は、その特徴的な音を聞いて――このミラージュにも《鳥》が空を羽ばたいているのかと思った。 何せ、ダイイチキュウで僕ら三人は《鳥》を日常的に見慣れてしまっていたのだ。 だからこそ、その羽音を聞いて『懐かしい』と感じてしまった。それは、傍らにいる誠や引田にとっても同じことなのだろうと僕は察した。 すぐ側にいる二人の目に、何とも言いがたい安堵の表情が浮かんでいるからだ。 雲ひとつない澄んだ青空を優雅に飛び回る《鳥》は、その種が何であれ――美しいものだ。 (ああ、まるで……まるで――天使みたいだ……っ____) そう思った途端に、僕の胸を支配するのは、凄まじい高揚感____。 対を為すように僕らの周りを自由に飛び回る《鳥》達から、目が離せない。まるで、恋の弓矢を持つキューピッドから狙われた者のようにすっかり魅了されてしまい自分達の方が彫刻さながら動けなくなってしまっていた。 しかし、そんな僕らの異様な行動をミストはみすみす見逃したまま決して無言を貫いたりはしない。 「дγΥ δΧЩ θβδρμΨΩ …………!!」 再会した直後ということもあって久しぶりに聞く、ミストの口から発せられる魔法詠唱____。 ただ、やはり魔法学について学んだ経験のない僕には、それを唱えることによってどのような効果をもたらすのかは、さっぱり分からない。 僕は、ちらっとサンの方へ視線を向ける。 すると、いつの間にか元のエルフとしての姿(僕らがミラージュで出会った時から認識していた姿というべきか)へ戻った彼が険しい顔つきをしながら魔法詠唱をした直後空中を睨み付けるミストと、空中に放たれたその魔法攻撃が当たったおかげで、ピタリと動きが止まった【鳥】たちの動向を真剣に伺っているのが見える。 それだけじゃなく、決して口にはしないもののサンがどことなく不安げな表情を浮かべているのが、僕には気にかかって仕方がなかった。 ふと横目で隣を見てみると、誠と引田も僕と同じように息を呑みながらミストとサン――更に空中を舞う《二対の白い鳥》の様子を気にかけているのがその表情から何となく伺える。 そんな時____、だった。 優雅に舞う動きを同時にピタリと止めた【二対の白い鳥】が、ゴトゴトッと音を立てて僕らが立っている地上へと落下してきたのだ。 そして、それに続くミストから放たれる言葉____。 「いきなりで、驚いたかもしれない。でも、ユウタ――それにヒキタとマコトも……ミストの言葉を聞いてくれる?」 急な出来事にびっくりしつつも、僕ら三人はほとんど同じタイミングで、こくりと頷いた。 「ユウタ……それに、マコトもヒキタも――いや、もしこの場に他のダイイチキュウから来たニンゲン達がいたら、きっと彼らも誤解するだろうけど……コイツらは、ダイイチキュウにいる《トリ》なんかじゃないよ。確かに、ミラージュにいる極一部の者たちはその存在を知ってる」 「ねえ、ミスト……どうしても気になったことがあるんだけれど、何で異世界ともいえるダイイチキュウのことを知っている奴らがいるわけ?それも、極一部の奴らだけだなんて……何かが、おかしい。まるで、その一部分の奴らとやらはダイイチキュウのことをずっと監視しているみたいじゃないか!!」 これは、引田の怒りと困惑を交えた何に対してか形容し難い訴え____。 「極一部分の奴らは、国王に命じられて仕方なくダイイチキュウのことを調べてるのがほとんどなんだよ。まあ、たまにダイイチキュウマニアと呼ばれる変人たちもいるけど、それこそミラージュにおける、ほんの極一部。このミラージュを収めている国王はダイイチキュウのことが大好きで堪らないからミラージュに住む全種族達にもその素晴らしさを知らせたくて共感してほしくて、それどころか共有してほしくてダイイチキュウのフウケイ、キセツ……それにセイブツたち、もちろんユウタたちのようなニンゲンについてだって調べてる。ヒルマはタイヨウに擬態し、ヨルはツキに擬態して――っと、ちょっとだけ話が逸れたかな?ミストも、まだ……消えたくはないからこのへんにしておいてくれるよね?」 ミストは無理をして、どうにかこうにか笑顔を作って僕らに教えてくれているように思えた。こうなっては、疑問を訴えかけた引田もこれ以上それについて掘り下げるわけにはいかないと察して納得いかないという表情を浮かべつつ黙ってしまう。 「《鳥に見える》こいつらは、危険な存在。つまり、ミスト……お前はそんな風に言いたいということか?」 それから目を伏し目がちに俯き、躊躇している様を見せながらも、少ししてミストが誠の問いに対して答えようとした時だった。 「____あ………っ……ぐっ…………!?」 先程まで確かに動きを止め、地に落下していた筈の石像の片割れが――いつの間にか瞬時にして、ミストの真上に姿を現して、ニンゲンのような長い腕で困惑の表情を浮かべる彼を乱暴に地面へと押し付けてしまい、その口を下手したら窒息してしまうのではないかという凄まじい力で防いでしまうのだった。

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