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コハクに捕らわれていた胎児は何になるか ①

誠や引田――それに、サンやライムスがベルの表面に浮かび上がった【知花】の目玉について気付いたかなんて僕には分からないけれど、その後にまたしても起こった【卵型の心臓】の異変については目に見えて明らかなので分からない筈がない。 さっきまで楕円形だった筈のそれはオーナメントベルが落ちてくると、そのことがきっかけとなったといわんばかりに表面の色だけでなく形を変えていく。 今や【卵型の心臓】の色は、黄金色と化している。 形を変えるとはいっても、完全に別のものになるというわけではなかった。かろうじて楕円形をとどめてはいるものの、まるで火にあぶられた飴細工のように上下左右の一部分のみがうねうねと徐々に伸びていき、ダイイチキュウで何度も行ったことのある【公園の木】の枝へと巻き付いていく。 「ミスト……っ……ダメ……!!」 僕らは、ほぼ同時に叫んだ。 何故なら色が変わり、形もどんどんと大きくなっていく【卵型の心臓】に引き寄せられるように、ふらふらとした足取りでミストが向かっていったからだ。 僕と誠が、ダイイチキュウに通っていた頃――ほんの些細な好奇心を刺激され《学校の旧校舎》へ行き、鏡の前に立った光景を思い出す。 あの頃は、ミストもサンも――ナギだっていなかった。そもそも、彼らとは出会ってすらいなかった。 あの頃は想太も近くにいて、僕と誠のすぐ側にいてくれて他愛ないおしゃべりばかりしていた。 今のミストに僕らが必死になって訴えている制止の言葉は届かない。 むしろ、僕らが大きな声で『戻ってきて』『そっちにいっちゃダメ』と言えば言うほど、まるで親に叱られている最中の子供がする自然な行動のようにミストの足取りが早くなってしまっているのだ。 そのことに、早く気がつくべきだった。 もし、僕らがもっと早く制止を促すのをやめていたら――もしかしたらミストはこっちを見てくれたかもしれない。 けれど、遅かった。 そのことにようやく気が付いた時には、既にミストの体は透き通った黄金色の【卵型の心臓】の中に全て取り込まれてしまっていたのだ。 母親の体内にいる胎児のような格好で、ミストは心地よさそうに眠りについている。 僕らの悲痛まじりの言葉は、いっそう彼に届かなくなってしまった。 僅かに黒い不純物が混じっているものの、それでも全体を見通してみると見事に透き通った黄金色の表面というのもあいまって、ダイイチキュウに存在する《琥珀》にそっくりだ。 とてつもなく異様な事態が起こっているのは、僕はもちろんのこと――他の仲間達にも理解できる。 それでも、あまりの美しさに全員が呆気にとられてしまっていた。 しかし、やがて――そんなことをしている場合ではないと厭が応でも気付かされる出来事が起こってしまう。 周囲につんざくような赤ん坊に似た悲鳴が響き渡った後、《琥珀》のように美しい黄金色だった【卵型の心臓】がドス黒い赤に染まったかと思うと――凄まじい勢いでヒビが入っていき、やがて完全に崩壊してしまったのだった。

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