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コハクに捕らわれていた胎児は何になるか②
その直後、再び《卵みたいな心臓》の残骸から、先程とは比べ物にならないくらい、けたたましい赤ん坊のような泣き声が響いてくる。
先程と違うのは、その場に立っていられなくなる程の大音響____。
まるで、真上にいる何者かによって全身が地へと押し潰されてしまっている錯覚に陥るほどに苦痛を伴っている。
「ゆ……た……ん____見……サ……は効……いて……い……。た………せ…………が……」
引田が、何かを僕へ向かって伝えようとしてくれているのは分かる。 それは、同じように地に膝をつけて苦しそうに顔を歪めている彼の様子を見れば明らかなことなのだけれども、どうしてもその内容が理解できない。
(なに……っ……いったい何を言っているの____)
自分では、そう問いかけているつもりだったのに、引田の口から発せられている言葉の内容だけでなく、自らが発している言葉の内容までもが理解できない。
そして、それは少し離れた場所にいる誠でも同じらしく、とても困惑した表情を浮かべつつ――まるで餌を求める金魚みたいに口をパクパクさせている。
そうはいっても声そのものが出ていないわけではなく、あくまでも互いに話そうとしている言葉の内容が理解できていないのだ。
だが、サンは例外らしく僕らのように困惑した表情を浮かべていないのが窺える。
このメンバーの中でも冷静な判断ができるサンは、僕ら三人の異変を察知して危機を抱いたのか割れて原型をほぼ留めていない【さっきまで卵型だった心臓】の方へと慌てて視線を向けるのが見えた。
この素早いサンの判断は正解だったのだろう。
今の異常とさえいえる僕らの耳には、サンの必死な訴えは絶対に届きはしないのだから____。
それに彼の剣幕につられるようにして、僕ら三人が再び【さっきまで卵型だった心臓】へと目をやった時には、既に新たな異変が起きていた。
その場にいる四人共が、一斉に声にならない悲鳴をあげそうになり目を丸くする。
咄嗟にサンの方へと目をやった僕だったが、彼は中でも特に受けたショックが大きいのだう。
正常な状況であれば絶対に表に出さないであろう、ひきつった表情を浮かべていて明らかに恐怖と不安に満ちた様を隠しきれていないのが理解できる。
でも、サンがそんな様子になるのも無理はない。
地に落ちただけでなく、粉々とは言えないまでも砕け散った姿となってしまい、見るも無残な状態となってしまった【卵型だった心臓】の中から何かが空中へ向かって浮かび上がったのだから____。
しかも、その正体が肌が浅黒く変化し――なおかつダイイチキュウでいうところの赤ん坊サイズにまで体が小さくなっている【ミスト】なのが明らかに見てとれるものだから、サンだけでなく僕らまでもが腰を抜かしてしまいそうになるくらいに衝撃を受けて目が離せなくなってしまうのだった。
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