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【さあ、タタカイの時間だよ】①

再び辺りに響き渡り、地を揺るがすほどのミストの悲鳴____。 「こ、これは……本当にミスト____なのか!?」 ミストのあまりの変容ぶりに釘付けになっているサンの口から咄嗟に発せられた疑問。 サンのように直接声に出さずとも、他の仲間達も皆が皆____同じことを感じているということが、その戸惑いの表情から伺える。 新たに生まれ変わったといわんばかりに、ミストの容姿をした《それ》は――こう言うのだ。 【いやだなぁ、サンったら……ミストだよ。ミストそのものだよ、当たり前じゃないか。大好きな姉さんを手にかけたダイイチキュウに暮らすニンゲンたちを憎んで、憎んで……処分したいって願ってるくせにその気持ち押し殺してニンゲンたちを赦して……挙げ句にはバカみたいに、そこにいる三人と一緒に行動しているミストだよ……だからね、決めたんだ____】 こうして見てみると、声はミストと同じようにしか聞こえない。そのことが、僕達の心をゆっくりと――だが、確実に揺さぶりをかけてくる。 その証拠に、先程のように《会話の内容がどうしても理解できない》《泣き声を聞いただけで立っていられなくなるほどの目眩がする》といった目に見えて明らかな異変が起きていないにも関わらず、ここにいる誰もが攻撃を繰り出そうという素振りさえ見せない。 「____決めたって、何を?」 誰かが、おそるおそる聞いている。 けれど、その問いを放ったのが誰かも分からない。まるで、深い海の底に落ちていく時のように____。 あるいは、プールの授業中に耳に水が詰まってしまった時のように、耳の奥の方がぼわぼわしていて気持ち悪い感覚が終始襲ってきている。 【いやだなぁ、マコトってば……そんなの分かりきっているくせに。この一行の中で、唯一自らの命に変えても守りたい――そんな思いを一番強く抱いているのはキミだけだ。ユウタを命に変えても守りたいって、ずっとずっと……サンよりもヒキタよりも、この中で誰よりも深く思ってるはず____キミの思いが一番美味しそうなんだよ……だから、奪うことにしたよ――その思いをね】 ここにきて、ようやく誠とサンは互いに目を合わせて合図をし、自らの武器を構える。 サンは弓矢を構え、誠は以前立ち寄った各地を転々としている武器商人が集う市場のような場所で購入した長剣を構える。 更に、僕はといえば容姿は変わったとはいえ声色は元々のミストそのものである《それ》に対して怯え戸惑いながらも、何とか震える手で懐から《低級・中級攻撃魔法取り扱い書》なる、魔法の呪文がびっしりと記された分厚めのグリモワールを取り出す。 引田は、相も変わらず《魔力アイテム》が無造作に詰め込まれ、パンパンになっている革製のカバンに手をかけて戦闘の準備をする。 いや、攻撃の構えをしたのは僕らだけじゃない。 ミストの声真似をする《それ》も、右手の手の甲で太ももをトントントンと規則的なリズムで叩いた後に、そこから引きずり出されるかのように出現した黒くトゲのように尖った形状の杖を持ち構えて僕ら一行との戦闘の意思をあらわにするのだった。

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