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【月夜の花嫁】遠崎秀也
柔らかなベッドに横たわるのは、流れる銀糸を揺らめかせる美しい少年、エルンストだった。透き通ったアイスブルーの瞳は儚げで、暗い窓の外を眺め、ため息をついていた。
「……ハインリッヒ」
ここにいない、愛しい男の名を呼び、虚しさに目を伏せる。
エルンストは籠の中の鳥だった。ハインリッヒという名の男に囚われた、哀れな小鳥。だが、エルンストは不幸だと感じたことはない。毎夜、愛される悦びに目覚めた身体は、ハインリッヒなしにはもはや生きることなどできないのだ。
ハインリッヒ――妖しい魅力に満ちた男。漆黒の髪に灼熱を宿した眼差し。その瞳に射抜かれれば、たちまち心の臓が激しく鼓動する。
「まだ、戻らないのか……?」
ハインリッヒのことを思うと、身体中が火照り、心までとろけてしまいそうになる。
――寂しい、辛い、苦しい、切ない。
そんな感情がぐるぐると胸の中を巡っていった。
その時だ。
「何をしている?」
ドアが軋みをあげて開かれると同時に、低く蠱惑的な声がした。
ハインリッヒだ。エルンストは弾かれたように顔を上げ、声のする方へ振り返った。
「ハインリッヒ……!」
「月でも見ていたのか」
「そんなことは、どうでもいい……!!」
紗の衣を纏ったエルンストはひらりとベッドから飛び降りて、かすかに微笑むハインリッヒの胸に縋り付いた。体温を感じさせない冷たい胸。その胸に、頬を摺り寄せる。そんなエルンストの頭を撫でながら、ハインリッヒはフッ、と笑った。
「私がいなかったことが、そんなに辛かったか」
「辛いに決まっている……! 貴方が何も言わずに何処かへ行くなんて、今まで一度もなかった!」
「ふっ……可愛いことを言う」
長い爪がエルンストの首筋を撫で上げ、指先が頰に触れた。それだけで、エルンストは泣き出してしまいそうだった。
やっと帰ってきてくれた。
嬉しくて、感情が昂ぶってしまう。
「エルンスト」
名を呼ばれた瞬間、細い身体が宙に浮いた。驚いたエルンストは思わずハインリッヒの首にしがみつき、なんとかバランスを取ろうとした。そのままベッドへと連れて行かれ、そっと寝かされる。
「ハインリッヒ……?」
「寂しい思いをさせた詫びだ」
冷たい唇が、エルンストの唇を塞いだ。舌が滑り込んできて、甘く吸われ、舌が絡み合う。求めていたものが、今、与えられている。
「んっ……んんっ……」
エルンストは喜びに打ちひしがれた。口づけをしている最中に、紗の衣を脱がされ、エルンストは素肌を月明かりに晒す。透き通るような肌。胸の飾りは果実のように熟れ、紅く染まっていた。その果実に、ハインリッヒの手が伸びてくる。
「あッ……」
「可愛がってやる。お前はただ、その身を私に委ねていればいい」
言われるがまま、エルンストは目を閉じてハインリッヒの愛撫に酔い痴れた。
「ああ、美味そうな乳首だ。今度、お前の瞳と同じ色の宝玉で胸飾りを作らせよう」
きゅっと両方の乳首をつまみ、くりくりと指先で弄ぶ。乳暈をぐるりとなぞられて、エルンストは足を引きつらせた。
「やぁっ……ん…ッ」
「嫌か? 嫌ならばやめるが、お前のここは嫌がっていないぞ」
「あっ……! だ、め…、まだ、触っちゃ……!」
すでにハインリッヒの愛撫に感じ入り、勃起していた肉茎をなぞられて、もどかしい快感に身を震わせた。弱いところばかりを責められては、すぐに絶頂してしまう。
――そんなのは、面白くない。
「もっと……乳首……いじめて…っ」
胸を突き出してさらなる快楽を求める。はしたないとは分かっているが、こうするとハインリッヒが喜ぶのを知っていた。エルンストが肉欲に素直になればなるほど、この男はさらなる快楽を与え、愛してくれる。それが何よりも嬉しくて、羞恥を忘れておねだりをしてしまうのだ。
「ふふ……こうか? 少しくらい痛いのが好きなんだろう?」
「んああっ…あっ、ああ……!」
濃いピンク色になった乳首の先端に爪を立てられ、言葉にならない。さらにギリッ、と力を込められた瞬間、同じくピンクに染まった肉茎の先端から蜜がぴゅくっと弾けた。完全な絶頂ではないが、それに近い悦楽にエルンストは泣いた。
「はぁ、ッ、あ、あん……!!」
「乳首だけで、ここまで感じるのか」
身体を移動させ、ハインリッヒはエルンストの華奢な身体をベッドへ縫い止めた。ハインリッヒの唇が、色づいた乳首に触れ、吸い付く。舌先で転がされ、きつく吸い上げられ、エルンストは甲高い嬌声をあげた。
乳首を吸われると同時に、濡れた性器の先端をこねまわされたのだ。
「ああうッ、ひぁっ、あっ……!」
「いい声だ……もっと啼け」
ゆるゆると肉茎を擦られて、乳首も責められ、声を我慢できなくなった。唾液をこぼしながら、エルンストはひっきりなしに嬌声をあげ続ける。
「ああっ……! ああ、ハインリッヒ…! おかしく、なっちゃうっ……!」
じゅるっといやらしい音を立て、唇が離れる。そんな音に耳まで犯されて、腰がはねてしまった。
「どんな風におかしくなるんだ? 見せてくれ、エルンスト」
「だめっ…だめぇ……」
気持ちよくて、愛おしすぎて、おかしくなる――。
エルンストは太ももを擦り合わせて身悶えた。
「エルンスト……もっと声を聞かせろ。私もお前に会えなくて、辛かったんだ」
「あンッ……!」
ちゅうっ、と音を立てて乳首を吸い上げられ、肩が震えた。ハインリッヒも辛かったなんて、思いもよらなかった。想っているのは自分だけで、ハインリッヒにとって自分は暇つぶしの玩具でしかないと感じていた。
紅色の眼差しが、柔らかくエルンストを見つめている。
「ハイン…リッヒ……っ」
「淫らな蜜が止まらないぞ。ちょうどいい、これを潤滑剤にしよう」
「やっ……言わないで……!」
黒髪をかき上げる仕草がとても色っぽい。エルンストは溢れた蜜をすくい取り、蕾に塗り込められる感覚に心臓が高鳴った。
「自分で解せるだろう。やってみせろ」
「は、い……」
濡れた蕾に指を触れさせると、それだけで蕾がきゅっと収縮した。しっかり濡らされたそこに指を滑り込ませるのは簡単で、ぬちゅりと音を立ててエルンストの細い指を飲み込んでいった。
「あっ……は、ぅ……」
「いやらしい姿だ。慎ましそうに見えて、貪欲な身体だな」
「ああッ…ハインリッヒ……もう…」
「まだだ。まだ奥まで解れていないだろう。私はお前を傷つけたくない」
人差し指と中指を抜き差ししても、まだハインリッヒは許してくれなかった。ぐるりと円を描くように指をうごめかせると、自分の指だというのにあられもない声がこぼれてしまう。
「んんッ…! あっ、あっ……だめ、もっと、おおきいの……硬くて熱いのが欲しい……」
ぐちゅぐちゅと音を立て、さらに激しく掻き混ぜる。
欲しい。もっと、熱い杭を打ち込まれて、蹂躙されてしまいたい。
エルンストは涙を流して訴えた。
そんな姿を見せつけられ、ついにハインリッヒが動き始める。
「そんなに私が欲しいか」
「ほし、いっ……もっ…我慢できない……!」
グチュンッ、グチュンッと奥まで指をつき入れるエルンストは、腰を浮かせてさらなる快感を得ようとしていた。
――もっと奥まで貫いて欲しい。もう、我慢の限界だった。
「ハインリッヒ……! 挿れてっ…おねがいッ……!!」
「ああ……私ももう、限界だ」
ずるりと取り出されたのは、雄々しい肉の杭だった。太く、長大なそれがエルンストの蕾にぴたりとあてがわれる。エルンストの先端から溢れる淫蜜を手ですくい取り、その肉杭に塗りつけ、ゆっくりと腰を進めていった。
「ん、はぁッ……!!」
「力を抜け。まるで処女のような締め付けだ」
「あっ…う! だって、っ、あ、あ、くるっ……ハインリッヒが、入って、くる……!」
ずるずると、熱いものが隘路を拡げていく。エルンストのなかが、ハインリッヒによって作り変えられていくようだ。ゆっくりとした挿入に、エルンストは背を仰け反らせて荒く呼吸した。
「はっ…あ、う……ああッん……!」
エルンストは無意識に、自らの乳首をくりくりと弄っていた。時折ぎゅっと摘むたび、ハインリッヒを受け入れている媚肉が肉杭を締め付ける。
「くっ……淫らな姿だな。あまり強くすると、また腫れてしまうぞ」
「ハインリッヒ……気持ち、いいっ…? 僕の中で……感じてる…?」
頬を上気させながら、不安そうに尋ねるエルンストに驚き、ハインリッヒは動きを止めた。
「僕ばかり、気持ちよくなっているなんて……そんなの……っ」
「……心配ない。お前を壊してしまいたくなるくらい、私も感じている」
顔色の変わらないハインリッヒだが、その言葉に偽りはなかった。
「ほん、とう……?」
「当然だ。でなければ、こんなに興奮することはないだろう?」
「え……っ、ひ、あ、ああんッ!!」
ハインリッヒがグッと腰を進めてくる。すると弱いところを擦りあげられ、身も世もなく銀の髪を振り乱し、感じてしまった。淫らな水音を立てて、激しいピストンが始まる。膝裏に手を入れられ、大きく脚を開いたはしたない姿。それを見下ろし、ハインリッヒは笑みを浮かべて激しく腰を打ち付ける。
魔族と、人――相容れぬ存在だというのに、ふたりは深く愛し合っていた。
「ああッ! イクッ…いく、ああッ、あっ……!!」
「……私の愛をすべて受け止めろ、エルンスト」
「ぁんッ…! ああう、あ、あああ……イクッ……あ、ぁあん!!」
汗の粒を散らし、エルンストは激しく愛蜜を噴き上げた。熱い粘液がエルンストの顔にまで散ってきて、思わず目を閉じる。そうすると、今度は中で爆ぜたハインリッヒの脈動を深く感じることができた。
どくどくと、熱いものが注がれている。愛された証だ。
それがあまりにも嬉しくて、腕を伸ばしてハインリッヒに抱きついてしまった。
「ハインリッヒ……!」
そんな仕草に愛しさが募り、ハインリッヒはエルンストの身体をきつく抱きしめ、耳元に囁きかけた。
「愛している――我が花嫁よ」
ふたりはどちらからともなく口づけを交わし、月夜に照らされながらお互いの愛を確かめ合った。
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