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【魔族の寵愛】ゆまは なお

「あ…、ダメっ、です…」 「どうした?」 胸の小さな粒を舌で押しつぶされて、ラファエルは喉を反らした。 絹ような細い銀の髪がさらりと揺れてシーツの海に波を作る。 蒼い瞳は潤んでいて、今にも涙がこぼれ落ちそうになっている。 一見すると少女にしか見えないほど美しい少年だ。 広いベッドの上で、ラファエルは男に弄ばれていた。 何度も舌で捏ねられ、とがった爪で引っかかれた小さな乳首はすっかり熟れて濡れそぼり、きれいな薄紅色に染まっている。 白い肌のなかで、そこだけが色づいてとても扇情的だった。 「やぁ、…っ、は、あ……、あっ、あん」 「いやらしい声だな」 笑いを含んだ声で揶揄されて、ラファエルの頬が真っ赤になった。 でも相手に抗議することなく、ただ黙って唇を噛んで辱めに耐える。 ベッドの上でラファエルの夜着をはだけている男は、人ではなかった。 驚くほど美しい貌をしているが、尖った耳に真っ赤な光彩を持つその姿は魔族だと一目でわかる。夜の闇より暗い長い黒髪が、月光を受けて深藍色に染まって見えた。 週に何度かこの美しい魔族がラファエルの元を訪れるようになって、すでに3カ月ほどが経っている。 その間にラファエルの体は魔族によって蹂躙されることにすっかり慣らされて、とても淫らに反応するようになってしまった。 「ほら、もう弾けそうになっている…」 足の間に手を差し入れて、魔族が口元に笑みを作る。 禍々しいのに美しく、酷薄そうな冷たい微笑み。 「嫌です、触らないで」 鋭い快楽と痛みを与えられ、ラファエルはいっそう頬を染めて涙をこぼした。 そんな泣き顔ですら、魔族を悦ばせるだけだ。 「嫌々ばかりだな。ここは悦んでいるのに?」 「言わないで、ください…」 自分がどんなことになっているか、よくわかっている。でもそれを指摘されるのは、本来潔癖なラファエルには耐えがたいことだった。 「どうして? こんなに淫らで美しいのに、何を恥じる?」 魔族はラファエルの昂りを手の中に包みこみ、愛おしむように撫でさする。途端に背筋を快感が駆け抜けて、ラファエルは思わず腰を揺らしてしまう。 「あ、あ…っ」 大天使の名を持つラファエルは今や堕天使といっていい姿で白く細い体をくねらせて、それでも魔族の与える快楽に堕ちるまいと必死に首を振った。 もちろんそんな抵抗はするだけ無駄で、いつも最後には自分からねだってしまい、彼のいいようにされてしまうのだ。 「ふむ…。今宵は明るくしてみるか、お前の体がよく見えるように」 呟いたと同時に部屋のランプがいっせいに灯った。 長い黒髪がランプの光を弾いてさらさらと流れ落ち、ラファエルの体にさらりとかかる。 その髪が触れた感触にも体は敏感に反応して、ラファエルは背筋を震わせた。 「やめて、消してください」 見られることに羞恥を覚えて、ラファエルは身を縮こまらせた。 こんな姿を明るいランプの下にさらすなんて…。 「何を恥ずかしがる? すでに何度も交わったのに」 口づけられそうになり、ラファエルはあわてて顔をそらした。 魔族の体液は人間に対して催淫効果を持っているらしい。 そのことに気がついてからは、ついそんな反応をしてしまう。 ラファエルの小さな抵抗を、彼はふっと口元だけで笑い飛ばした。 「無駄なことを」 きらめく光彩の紅い瞳に見つめられると抵抗する気がなくなり、ラファエルは素直に舌を差しだした。絡めあってお互いに吸い合うと、じんとした熱さがそこから体じゅうに広がる。 「お前のような、きれいな心の持ち主の生気はことのほかうまい」 満足げに呟いて、魔族は深い深い口づけをラファエルに施す。 今夜も長い夜になるだろう。 ラファエルは震える体を弄ばれることしかできないのだ。 ラファエルが魔族に体を差しだすのは、4歳上の兄のためだった。 兄はある日突然、謎の湿疹が全身に現れ、徐々に全身の力が入らなくなるという原因不明の病に侵された。 両親は跡取り息子の発病にたいそう嘆き悲しんだ。 領主の息子の病に高名な医術師や呪術師がやってきたが、治療の甲斐なく病は徐々に進行し、半年前には寝たきりになってしまった。 ラファエルは兄の回復を祈るため、毎日学校帰りに教会に通った。 まだ16歳の少年には、そのくらいしか兄のためにできることがなかったからだ。 ある冬の夕刻、熱心に祈りを捧げた後、薄闇のなか帰宅を急ぐラファエルに、魔族はあまく低い声で誘いを掛けてきた。 「お前の生気を分けてくれるなら、兄を助けてやろう」 紅い瞳に黒髪の美しい魔族は、この世の物とは思えないほどの禍々しさで笑いながらそう誘ったのだ。 この者の言葉に耳を貸してはいけない。 そのくらいのことはラファエルも承知していたが、両親の嘆きや兄の辛そうな顔が思い出されて、つい足を止めてしまった。 「兄はもう3ヵ月も寝たきりなのです。本当に助けられますか?」 「ああ。我に不可能なことなどない」 天使よりも悪魔のほうがきっと美しい生き物だ。 彼に出会って、ラファエルはそう思うようになった。 そうでなければ、魔族の手に堕ちる人間がこんなにも多いわけがない。 いまだに名前も知らないが、彼は律義に週に数回、屋敷へやってきてラファエルを抱く。 どんな術が施されるのか、その間、ラファエルがどんなに泣いても叫んでも、絶対に誰も部屋にはやって来ない。 隣りの部屋に控えているはずの、ラファエル付きのメイドはもちろん、屋敷の警備に立っているはずの夜警でさえも。 きっとこのまま、魔族が飽きてしまうまで体を貪られるのだろう。 あるいは魂まで食われてしまうのかもしれない。 そう考えると、ラファエルは絶望的な気持ちになる。 こんなことがいつまで続くのだろうと考えて不安になる夜もある。 あるいは時おり、怖くなることもある。 怖いのは魔族と取引きしたことではない。 ラファエルが怖いのは、自分が自分を保っていられるのかということだった。 このまま魔族に取りこまれて、自分も魔族になってしまうんだろうか? 魔族の淫らな性はまだ16歳のラファエルには想像もできなかったほどの淫蕩ぶりで、彼に抱かれている間、あまりの快楽に意識を失うこともたびたびだった。 けれども、兄は確かに元気になりつつある。 それだけが救いだった。 最近は食事も軟らかく煮たスープやパンなら食べるし、起き上がって座ることもできるようになった。自分が魔族に従っている限り、このまま回復するのだろう。 跡取りである兄が元気になれば、それは本当に嬉しく、両親のためにもそして領民のためにも安心できることだ…。 その思いだけで、ラファエルは今の状況に耐えているのだった。 「あ、あぁ、もう、許して…」 泣きながら懇願しても魔族は楽しげな笑みを見せるだけで、ラファエルのお願いなど当然聞いてはくれない。 「どうした?」 「熱い…。おかし、く、なる…」 体の奥が疼いて、魔族を欲しがっているのがわかる。 自分がこんなに淫らだなんて信じたくない。 でもこの熱を放出したくて、自然に体は揺れ、愛撫をねだる。 あさましくてそんな自分は嫌なのに、どうしても抑えられない。 「どこが熱い?」 「……中、中が、熱くて…」 意地悪な問いかけに、必死で答える。 きゅっと乳首をつねられて、びくっと体が跳ねた。 さっきからずっと胸から脇腹あたりをいたずらに舐めたり触ったりしているだけで、魔族はそれ以上のことはしてこない。 何度も舐めて吸いつかれた乳首はつんと尖って、じんじんと熱を持っている。 そこから広がった熱で、もう全身がほてっていた。 「望みがあれば口に出せ。魔族には人の気持ちなどわからぬぞ」 何もかも見透かした紅い眼で、彼がいっそう優しい声で唆す。 「何も、ない、です」 途切れ途切れに意地で答えたが、それにも魔族は楽しげに笑うだけだ。 「そうか。何もなかったか」 するりとラファエルの体から手を引いて、起き上がる。 手をひらりと返したと思ったらその手にはワイングラスがあり、ベッドに腰掛けた状態で優雅にワインを飲むさまは絵画に出てきそうなほど美しかった。 魔族がワインを楽しんでいる間にも、ラファエルの体はさっきの口づけの影響で徐々に熱くなり、体の奥から疼いて仕方がない。 おさめる方法は一つしかないことは、この3ヵ月で学んだ。 どんなに抵抗しようとしても、魔族の誘惑には勝てないのだ。 彼はゆったりと脚を組み、ラファエルが苦しげにベッドの上で熱い体を持て余しているのを、機嫌よく眺めている。 とうとうラファエルは泣きながら哀願した。 まだ16歳の未熟な体に魔族のあまい淫らな毒はあまりにも強く、これ以上意地を張るのは無理だった。 「して、ください」 「何を?」 ひどく優しい声で、意地悪く問い返される。 ラファエルの望みなど百も承知で尋ねてくるのが憎らしい。 「…あなたが欲しいです」 「ほう…」 優雅にワインを飲み干して、魔族はラファエルの泣き顔を見下ろした。 「かわいいな、お前は」 尖った爪の先が頬に触れて、それだけで全身に震えが走る。 「もっときちんと言ってみろ」 「…抱いて、欲しいんです」 「どんなふうに?」 「お願いです。我慢、できない…」 力なく首を振って、うなだれる。 こんなのは、赦されないことなのに…。 小さく体を震わせて、身の内からじりじりと上がる熱に必死に耐えているラファエルを、魔族は愛おしそうに眺めた。 「もう我慢できないか? 淫らでいい体になったな」 彼は残酷な言葉でラファエルを嬲り、声をあげて笑いながらベッドに押し倒すと大きく両脚を開かせた。 「ほら、物欲しげに口を開けている」 「言わないでっ」 明るいランプの下ですべてをさらけ出され、ラファエルは顔を倒して必死に羞恥に耐える。 「褒めているのに、何を泣く?」 「こんなのは、…いけないことです」 「今さらだな。でも欲しいんだろう?」 良心と欲望の狭間で葛藤し、快楽に負けて泣き乱れる姿がこれほど魔族を惹きつけることなど思いもよらないラファエルは、惜しげもなくその痴態をさらしている。 「さあ我を受け入れて、泣いて悦べ」 「いや、やっ、ああ、あ、やああっーーーーーーーーー」 熱く硬い塊がそこに押しつけられ、触れた場所が期待で淫らにうごめいた。 次の瞬間、ぐっと一息に突きいれられて、ラファエルは絶叫した。 ものすごい快感が貫かれた場所から脳天まで突き上げて、一気に射精する。 びくびくと体が跳ね、白いものをまき散らした。 魔族はそんなことにはお構いなしに何度も腰を行き来させ、ラファエルを快楽の渦に巻き込んだ。内奥まで突かれて淫らに悦ぶ内壁が絡みつく。 ようやく与えられた快感に、ラファエルは意識を飛ばさないだけで精一杯で、突き上げられるままに魔族を貪った。 「そうやって、素直になればいい」 「あ、あっ、は……っ、やぁーー…」 2度目の絶頂を迎えながら、体の奥深くに魔族の精を受けたのを感じた。ここからがさらに深い快楽に堕ちていくことは、すでに体で知っている。 貪欲に慣らされた体は悦びに震え、ラファエルはむせび泣きながらいくらでも魔族を受け入れた。 もう意識はあらかた飛んでいて、勃ちあがったまだ未成熟な性器を自ら擦りたてて腰を振り、快楽に酔う姿はいつものことながらたっぷりと魔族を満足させた。 散々泣いて乱れたラファエルが4度目の絶頂を迎えて気を失うと、魔族はそっと2階の突き当りの部屋に向かった。 天蓋付きの大きなベッドに、ラファエルの兄が眠っている。 彼に会うのはずいぶんと久しぶりだ。 「ほら、薬だ」 小さなクリスタルの瓶からほんの一滴、魔族は兄の口元に何かを垂らした。 唇に受けたその刺激に、兄が目を開いた。 焦点の合わない目で兄は魔族の姿を探す。 どうにか身を起こそうともがくが、枕からほんの数センチ上がったところでまた首が落ちてしまう。 「お前、よくも俺をこんな目に遭わせたな?」 「何をいう。起き上がれるまでに回復しただろう?」 3ヵ月前までまったく寝たきりだった彼が、今では起き上がれるようになったのは事実だ。 「お前がこんな病にさせて、回復させたもないだろう」 恨みがましい眼で睨んでも、魔族は涼しげに微笑むだけだ。 「そうだったか?」 彼は冷たく答えて、長く伸びた爪の先で兄の痩せた頬をなぞった。 「これ以上の回復などしないが、しもべでいる限りは生かしておいてやる」 「こんな約束じゃ、なかったはずだ」 「自分よりも賢く美しい弟が目障りだと言ったのはお前だろう?」 「俺は…、ただ、俺の目の前から消してくれと言ったはずだ」 「今の状態はまさしくそうだろう? お前の目の前から弟の姿は消えている、契約通りだ。何か間違っているか?」 嘲る声で魔族は囁き、低く笑った。 「お前を呼び出したのは俺だ。召喚した人間の頼みを聞くのが筋じゃないのか」 「だから対価の分だけお前の願いは叶えた。さあ眠れ、話は終わりだ」 魔族がそう言うと同時に、兄の首ががくりと枕に沈んだ。 「本当にお前の弟はかわいいな…」 彼は眠ってしまった兄に語りかける。 「我を呼びだしてくれたことには感謝しよう。お前のおかげでラファエルに出会えたのだからな」 半年前、この魔族を召還したのはラファエルの兄だ。 放蕩を尽くしている兄よりも弟のほうが跡取りにふさわしいと推す声が大きくなって、自分の立場を危ぶんだ兄は弟を排除しようと画策したのだ。 だが、魔族はラファエルを一目見て気に入った。 ラファエルの美貌と素直な魂が、魔族を強く惹きつけたのだ。 あれを穢して欲望を引きずり出し、快楽の沼に堕としたらさぞかし素敵な抱き人形になるに違いない。殺してしまうのはもったいない、自分の手元に置こうと決めた。 契約は果たした。殺してくれとは言われていない。 「本当に淫らでかわいい抱き人形になった…」 魔界の大侯爵アシュタルトは紅い瞳を輝かせて酷薄に微笑むと、黒い翼を羽ばたかせ、音もなく姿を消した。 完

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