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第2話
築何十年経つのか分からない程のボロアパートの一階で、彼は母親と2人で仲良く暮らしていた。
この親子の間には『反抗期』という言葉が無縁だったようで、2人が仲良く並んで歩く姿を近所の人達も微笑みながら温かく見守ってくれている。
そんな彼らに悲劇は突然――いや、計画的に訪れた。
実は冬愛が3歳になったばかりの頃、彼の父は原因不明の病にかかったと言われ亡くなっている。
その地域では片手で数えられる程の名家にあたる亡き父の家。
残された幼き冬愛と母を養うこと位簡単で、親族には何度も『出て行く必要はない』と言われたが、彼女――冬愛の母親はその言葉に対して首を縦に振ることはなかった。
そしてある日、幼い冬愛を胸に抱きしめながら母は深夜に人目を盗んで屋敷から逃げ出したのだ。
新しい生活が始まってから一度だけ、冬愛は『何故こんなにも離れた場所へ来たのか』母に尋ねたことがある。
当時の冬愛にとってその言葉に全く深い意味は無く、幼い子供がただ思ったことを口にしただけだと母親も理解はしていたが、引き攣る頬を上手く隠すことはできなかった。
子供ながらにこの言葉は母を傷つける物だと感じた冬愛は、それ以降過去のことや今の生活で不思議に思ったことがあっても声に出して聞くことはなかった。
しかし彼が16歳になる頃少しずつ周りの環境が変わりだし、それと同時に――母親が何故この地を選んだのかも知ることとなる。
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