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第3話

「君、白崎冬愛くんだよね? おじさんのこと、覚えてるかな……?」 「なぁ、この人とあとあの知り合い?」 「……いや、知らない」 友人との下校中の出来事だった。 待ち伏せをされていたのか、突然目の前に現れた身なりの良い男は黒塗りの高級車に寄りかかりながら一方的に話しかけてくる。 「亜依さん――君のお母さんは元気かな? 君と2人で生きていくために〜って、仕事頑張り過ぎてるんじゃない? あんな犬小屋のようなボロアパートに逃げるくらいなら、あのままずぅ〜っと私のところにいればよかったのに……ね?」 鋭い目つきのまま、男は一歩ずつ冬愛へと近づく。 「久しぶりだね、冬愛。君は覚えてるかな? 白崎 春馬(しろさき はるま)、亡くなった真冬(まふゆ)の兄で……君の叔父さんだ。長い間あの母親と私から逃げていたようだけど、やっと……私の想像通りに美しくなった君に会えたよ」 そう言って春馬は彼の頬に手をあてると、円を描くように優しく撫ではじめた。 冬愛はその行動にゾッとし、すぐさま頬にあてられている手をはたき落とす。 「こんなヤツ放っておいて行こう」 「ちょ、とあとあ! 待って……!」 友人の腕を引き、不気味に笑う男から一刻でも早く離れられるようにと速足で去っていく。 「ははっ! ……まぁ、まだ未完成みたいだからね。君の準備が整ったら、また迎えにくるよ。だから……飛べない鳥ながらにせいぜい今を楽しんでおきな〜ってお母さんにも伝えておいてよ」 隣で心配そうに冬愛の顔を覗き込む友人に頬を引きつらせながら笑いかけ、彼は春馬からの言葉に耳を傾けないようにした。 この時はまた気づけずにいたが、実はこれが悪夢への始まりだったのだ……。

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