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第4話

それからしばらくして、アパートの近くや学校の周辺で黒塗りの高級車を見かける機会が増えた。 春馬から近づいてくるようなことはないが、監視をされているような視線を冬愛は常に感じていた。 そしてこの数ヶ月後、タイミング悪く冬愛に初めての発情期が訪れてしまったのだ。 「……くっ……ぅ。はあっ、はぁっ!!」 「冬愛、ゆっくり息を吸って。これお母さんのだからあなたの身体には合わないかもしれないけど……少しはラクになると思うから」 「うぐっ!! ……っは、……はっ……」 太腿に刺された抑制剤の痛みを堪え、遠のく意識のなか冬愛は母親の声に耳を傾ける。 「あの男に居場所を知られた今、このタイミングで発情期がくるだなんて……。ごめんね」 自分の体温のせいなのか、頬に触れた母の手が今日はやけに熱を持っているように感じる。 でも、その温もりすら心地よいと思えてきて冬愛はゆっくりと意識を手放した。 ――寝込んだ2日間の記憶が彼の中にはない。 ただ次に目を覚ました時、母は真剣な顔をして初めて過去の話をしてくれた。 夫である真冬の死因は病と言われているが、本当は違うのではないかと妻である自分は今も疑問に思っていること。 そしてそんな夫の死後、真冬の兄にあたる春馬が母や冬愛に対して執着したように近づいてきたため逃げるようにこの街へやってきたことを――。 「冬愛には辛い思いをさせてばかりだけど……あの男がこうして近くにいる今、間違っても発情期には外へ出てはいけない。香りを漏らすようなこともしちゃだめよ。……いいわね?」 「……うん」 それから冬愛は自身の周期をしっかりと記録し、発情期がくる前後は学校を休むようにと徹底した。 しかし発情期を迎えたばかりの若い彼の周期は常に不安定で、多少のズレが生じたり発情期間が予定よりも長引いたりしていた。 そしてその度に、母親が所持していた分の抑制剤を借りてその場をしのぐようにしていたのだ。 こうしてなんとか毎回やり過ごすことが出来ていたからこそ、母親の亜依も重要なことを忘れていた。 常に冬愛のことを最優先に考え、彼の薬が足りなくなったら自身の薬を分け与えてあげる。 つまり今度は彼女自身が、次に訪れる発情期と残りの抑制剤の個数を正しく把握出来ていなかったのだ……。

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