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第5話

――ガタンッ! 「母さん、おかえ――」 「冬愛……っ! 今すぐここをっ、出て行きなさいっ!」 数日後、発情期が終わり体調も良くなった冬愛はいつものように学校へと通っていた。 この日は最後のコマが自習になったこともあり早めに帰宅が出来たため、彼は母親の負担を少しでも減らせるようにと晩御飯を作りながら彼女の帰りを待っていた。 だから慌てるように部屋へ入って来た母親の姿を見て、目を大きく見開き驚く。 「母さん、もしかして……発情期? それなら今薬を持って――」 「薬はもう……ないの。お母さん、新しい分をもらい忘れ……ちゃって……。そんなことより……も、彼らがすぐここへくるわ……。冬愛は窓から……っ!!」 でも、と母親に反論をしようとした時タイミング良く玄関の扉をノックする音が部屋に響く。 声は聞こえないが、そこに誰がいるのかは今日までの出来事を思い返せばすぐに分かる。 「っ……良い子だから、お母さんの言う事……聞いて?」 亜依はふらつきながら、熱をもつ身体を起こすと冬愛の腕をひいて窓へと向かう。 ガラス戸を開けて冬愛を外へ追い出すと、彼女は小声ながらも力強い言葉で語りかけた。 「冬愛、早く行きなさい……っ!」 「でっ、でもっ……!」 「――……」 冬愛の耳元で何かを囁くと、彼の首へ指輪のついたネックレスをかけ柔らかい笑顔のままガラス戸を勢いよく閉める。 その後、彼女は一度も息子がいる後ろを振り返らずに玄関の扉に向かってまっすぐ進んでいった。 「――っ!!」 だから彼も母親の意思を尊重して溢れ出しそうになる涙を堪えながら、少しでも遠くへ行けるよう思い出が多く詰まったこの土地、アパートから走り去っていった。 『どこにいても、冬愛の事を愛しているわ……』 最後に聞いた母親の言葉を、胸に秘めながら……。

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