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第7話

(…………ぅ……んっ) 遠くから聞こえる食器のぶつかり合う音で、彼の意識は徐々に戻ってくる。 「……――っ!」 はじめはぼーっとしていた冬愛だったが、視界に広がりはじめた見慣れない真っ白な天井に驚き勢いよく身体を起こした。 (そうだ、母さん! 母さんは……!) 記憶が混乱しているのであろう。 冬愛は母親の姿を捜そうとその場で勢いよく立ち上がるが、足腰に力が入らず勢いよくベッドから落ちてしまう。 その物音を聞きつけてか、すぐにメガネをかけた優しい雰囲気の男が寝室の扉を開けて彼の前へとやって来る。 「君、目が覚めたんだね。よかった、もう大丈――」 「っ!!」 言葉と共に額へとのばされた手。 しかし冬愛は身体を震わせながら、その手を思い切り叩いてしまった。 目の前に突如現れた男は1歩だけ後ろへ下がり距離をとると、その場に膝をつき冬愛と視線を合わせてから眉をハの字にし優しく微笑んだ。 「ごめんね。目覚めてからすぐにこんなことされたら誰だって驚いちゃうよね。えーっと……はじめまして、俺は間宮七海(まみや ななみ)って言います。昨日店の前で倒れていた君を放っておけず、勝手だけど……家に連れてきました」 間宮七海と名乗る男の言葉を聞き冬愛は昨日までの出来事を思い出す。 自分の恰好をよく見れば、雨に濡れて泥で汚れていたはずの身体は綺麗になっており真新しい服が着せられている。 この部屋には自分を含め2人しかいないのだから、この男が全てやってくれたのだろうと嫌でも分かってしまう。 雰囲気からして良い人であることは伝わってくるが、冬愛はここ最近の出来事のせいで軽い人間不信になっていた。 今は素直に間宮を信じることができず、ただ黙って相手を見ることしか出来ない。 「とりあえず俺は向こうの部屋にいるから。気にせずここでゆっくり休んで落ち着いたら出ておいで? ご飯も用意してあるからさ」 冬愛の心を読み取ったかのように安心する言葉をかけると、七海はそのまま寝室から出ていった。 (何故あの人は俺に優しくするんだ……?) 見ず知らずの自分にこうして良くしてくれる理由が分からず、冬愛は靄のかかったような脳内で色々と考える。 ――性格上、彼は誰にでもこうするのか? ――それとも何か企みがあったうえでの行動なのか? 一度疑い出すと人はどこまでも不信感を募らしてしまう。 冬愛は空腹を感じても彼の呼びかけを無視して、そのまま数日間部屋にこもり続けたのだった。

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