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第9話

次に目を覚ました時、冬愛にはしっかり間宮とのやり取りの記憶があった。 何事もなかったかのように綺麗になっている身体を起こし、腕を伸ばしてカーテンを開ければキラキラと輝く眩しい日差しが差し込む。 しばらくその景色を冬愛はじーっと見つめる。 (……大丈夫。あの人の事は信じていいんだ) 自分へ言い聞かせるようにそう唱えると、冬愛はゆっくりと寝室の扉へ近づいていった。 ――ガチャ。 「……」 「おはよう。もう起き上がっても大丈夫そう?」 キッチンで手際よく料理をしていた間宮は黙って立ち竦んでいる冬愛へと声をかける。 そして、そんな間宮からの問いかけに冬愛は黙って首を縦に振り答えた。 「それなら良かった。ちょうど今、2人分のご飯が出来たんだ。良かったらそこに座って一緒に食べない?」 「……分かった」 冬愛が席に着いたのを見届けてから、間宮もゆっくりとダイニングテーブルへと近づいていく。 「無理はしないで食べられる分だけ食べてね」 そう言って間宮はフレンチトーストと目玉焼きがのった皿とホットミルクを冬愛と自分の前に置き席に着いた。 ぐぅー。 タイミングよく腹の虫の音で返事をする冬愛に、間宮は少し幼く見える表情でクスクスと笑ってしまう。 恥ずかしがりながらややムッとした冬愛は、そのまま黙って目の前に置かれたフレンチトーストにかぶりつく。 「……美味い」 「口に合うようでよかった。まぁ、こう見えてカフェの店長をやってるからね」 「えっ‼」 「君が倒れていたあの場所は、俺の店の裏だったんだよ」 ごめんねと断りを入れてから間宮は冬愛の口の横についたパンくずを手でとってあげると、そのまま親指を舐める。 その姿に何故か冬愛は照れてしまい、それを隠すかのように俯いてから今度は目玉焼きへとかぶりついた。 「んぐっ……! けほっ、けほっ」 「誰も取ったりしないから、ゆっくり食べな?」 そういって間宮から差し出されたホットミルクを受け取ると、冬愛は一口ずつ口に含んでいく。 喉のつっかかりも取れて少しずつ落ち着いてきた冬愛は、目の前にいる彼を再び黙って見つめた。 常に冷静で優しい言葉をかけてくれる間宮は、初めてあった人とは思えないほど自分に対して良くしてくれる。 はじめは何か見返りを求めていたり何かを企んでいるのではと疑っていたが、そうではないことが十分に伝わってくる。 だから―― 「これ……食べ終わったら、話がしたい」 「うん。君の話が終わったら、俺の話も聞いてくれる?」 「……あぁ」 膝の上に手を置き背筋を伸ばして言葉を発した冬愛に対し、間宮はテーブルに肘をつき自分の顎を手で支えながら笑顔で返事をする。 リビングのカーテンを揺らしながら、2人の間に暖かい風が吹いた。

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