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第10話
テーブルの木目を見つめながら、冬愛はゆっくりと昨日までの出来事を話す。
幼い頃に父親が亡くなっており、仲のいい母親と楽しく暮らしていたこと。
その父の兄が突然2人の前に現れて、遠くから監視をされていたこと。
そして――母親の発情期に奴らが自宅へやって来たのがキッカケで、自分は町から離れるように逃げてきたことを……。
「間宮さんに保護してもらう前に見たんです。この町の大型スクリーンに映し出されたΩ死亡事件を。場所も性別も、死因も……俺が出て行った後のことを想像すれば……っ、話は全部繋がります」
確信に近い情報を、静かに涙を流しながら間宮に伝えた。
「この言葉が今正しいのか分からないけど……君が無事にここまで来てくれて、俺は安心しているよ。よく頑張ったね」
「うっ…………、っく」
間宮の言葉を聞き、冬愛の瞳からは蛇口が壊れたかのように大粒の涙がポロポロと流れ出して止まらない。
まだ10代の子供なのだから、やはりこのような出来事を1人で消化するのは難しかったのだろう。
「間宮さん、初対面の相手にこんなことを頼むのは可笑しいって分かっているんですが……住まいが見つかるまでは、ここに置いてくれませんか。落ち着いたら、バイト先とかも探してお金はちゃんと返すから……」
冬愛は唇を強く噛みしめ、間宮からの返事をドキドキしながら待っていた。
「…………」
しかしいつまで待っても返ってこない返事。
やはり失礼なことを言ってしまったのだと冬愛が恐る恐る顔を上げると、2人の視線が交わる。
間宮は優しく微笑むと、ゆっくりと口を開いた。
「やっとこっちを見てくれた。今の返事をする前に、一つだけ教えてくれるかな?」
「な……なに?」
どんなことを言われるのか冬愛は内心不安で仕方がない。
間宮にも聞こえてしまうのではと思うほど激しく脈をうつ自分の心臓の音が五月蝿くて、彼からの言葉を聞くまでは落ち着けずにいた。
「君の名前、そろそろ聞いてもいい?」
「……えっ?」
予想していなかった言葉に思わず間抜けな声が漏れてしまう。
そして一度冷静になり、この家に来てからのことを思い返すと自分が名前を一切名乗っていない事に気づいた。
「……あっ! ご、ごめんなさい! すっかり忘れてました。あんなに良くしてもらってたのに……」
「それどころじゃなかったもんね。大丈夫だよ」
「えっと……、申し遅れてすみません。俺は白崎冬愛って言います」
「冬愛くんか。綺麗な名前だね。改めまして……俺は間宮七海。よろしく」
差し出された手を握り返し、軽く握手をする。
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