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第3話
会議、営業、新人教育と立て続けに入ってくるスケジュールに、
懸のことは考えないでいようと思うにはちょうど良かった。
それでもガラス張りで仕切られただけの違う部署は自分の席からも見え、懸の姿が目に入ってくる。
上司に呼ばれたのだろう。何か話しているがこちらには聞こえるはずもなく、ため息一つつき、その後ろ姿を確認して僕はカバンを掴み、営業へと向かった。
それから…気付いたら懸の姿を数日見かけていなかった。
その間、LINEもメールも…着信すらもなかった。
始めのうちはお互い営業部にいてのすれ違いだろうと思っていた。
しかし次第に自分が張ってしまった虚勢に愛想つかれてしまったのでは…とも思った。
でもそれは折角、二人で会える時間を無駄にした懸への苛立ちが理由であり、自分のせいではない…と思いたかった。
「海老澤さん?まだ上がらないんですか?」
そう声かけてきたのは教育を任されている新人の田代だった。
「あぁ…これ終わったら」
と、提出書類を入力し、まとめているところだった。
「じゃ、一緒に飯行きません?」
田代はかなり人懐っこい性格のようで、新人とはいえ、忙しい営業の仕事を日々こなしていた。
「さぁ、何食べますか。ちょっとお酒も行っちゃいます?」
「う…うん」
この不安定な気持ちの中でお酒を入れてしまうのは不安もあったが
田代の勧めもあり、「じゃ、一杯だけな」と生ビールで乾杯した。
「ホント、海老澤さんにはすごく感謝してます。仕事の流れも覚えやすいし、取引先へのアプローチとかも丁寧に教えていただいて感謝してます!」
「そんなことないよ。田代も頑張ってるじゃないか。今までの新人教育で一番ラクって言ったら今まで教えたみんなに悪いかな」と苦笑した。
そして話が進み、気付けば一杯のつもりが酒も進んでいた。
「大丈夫ですか?帰れます?」
「大丈夫だって!!!」
そう言いながらも若干、立ってられないくらいに酔ってしまっていた。
「海老澤さん?!」
「ごめん……」
足元がふらつき、田代の肩に倒れこむように縋ってしまった。
「あの…海老澤さん、俺…」
田代は店と店の間にそっと体を引っ張った。
そしてそのまま口付けされてしまう。
「な、なに?!」
自分は目の前の男に何をされてるのだろう…。
酔っているせいか思考が追いつかない。
「俺、海老澤さんのこと…」
田代がそう言いかけた時、ふと街頭に照らされる人影が目に入った。
「ちょっと…離して」
慌てて田代から離れて暗がりから飛び出した。
そして再び驚き、目を丸くしてしまう。
「…懸?!」
そこにはこの数日見かけることもなく、連絡もよこさなかった懸が立っていたのだった。
一気に酔いが醒め、背中を冷たい物が流れていく感覚に襲われた。
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