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第5話
安心と焦りと色々なものが入り混じる中、掴まれた腕から伝わる熱と痛みが気持ちを追い詰めてくる。
懸は僕の顔も見ずに歩き続ける。
そして見慣れた懸のマンションに着き、中に入りエレベーターを待つ。
無言のこの時間がとても苦しい。
部屋に着き、案内されるままにソファーへ座った。
「何か飲む?つっても何もねぇなぁ。出張だったから買い置きしてなかったわ…」
「いいよ別に…そう言えば出張だったんだな。僕…てっきり…」
「待て!お前さぁ、そう悪い方向に考えるの辞めろよ。悪い癖だ。急に決まった出張だし、話もできないままだったからしょうがない」
「しょうがない?!あれは懸が僕を放ったらかしで…」
と、口ごもって俯いてしまう。
僕はわがままなのだろうか。それを言ってしまって嫌われたらと思って喉元で留める。
「佐智?言いたいことあったらもっと言って欲しい。俺たち…恋人同士だろ?
俺が家まで仕事持ち込んだりしてちゃんと向き合ってないのも悪いと思ってる。
それでも佐智は大切な存在だし、そんな不安な顔させたくない。
その為には佐智も言いたいこと、思ってることを言って欲しい。
遠慮なんかして欲しくない。佐智のして欲しいこと、したいこと言って」
僕は顔を上げると、目の前に懸がいた事に驚いた。
ソファーに座る僕の足元に跪き、手を握っていた。
「僕は…僕は…懸ともっと話をしたいし、懸のそばにずっと居たい。でも僕がそんなわがままを言ってしまったら、懸の負担とか迷惑になってしまうとか、そう思ったら何も言えなくて…。でも懸…僕は懸が好きだ」
そう言ったその唇を懸に塞がれてしまった。
角度を変えて何度も…。
息ができなくなるくらいに深く。
「なぁんか、苛立ってた気持ち治まった。」そう言って懸は笑った。
「俺、さっきあそこで佐智に会った時、一緒にいた田代に佐智を獲られたんじゃないかと思ったら居ても立ってもいられなかった。自分が佐智にどれだけさみしい思いをさせてるのかって思ったら、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。ごめん。
佐智…ここで一緒に住まないか?今すぐじゃなくてもいい。いつか…」
まさかのプロポーズの言葉に僕は目頭が熱くなる。
そして僕は懸の背中に腕を回して身をあずけた。
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