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第6話

俺達がほんの少しのすれ違いを経験したあの日から、どれだけ経ったのだろうか。 あの時の佐智の不安な顔、寂しい気持ちを今まで理解出来ているようで出来ていなかった自分に、思い出す度に腹を立てていた。 『“いつか”とは言ったものの……何にも進んでないんだよなぁ。これってヤバいよな、また』 ちらりと自分のデスクからガラス張りの向こうを覗き見る。 佐智が丁度席を立った所のようで自然と目が合った。 あの日からどれだけ経っても佐智からは何も言っては来ないのは、俺からの続きの言葉をずっと待っているんだろうと思う。 ここにきて何を迷ってんだよ、俺は。 よしっ!という気持ちと共に、慣れた指使いで画面を操作する。 「あ、佐智?俺。あのさ、今日昼過ぎ頃から外回りなんだわ。俺も早々に終わらせて直帰するし先に家に行っててくれる?」 『うん、分かった。ご飯作っとくよ、何が良い?』 「何でも。佐智の手料理なら、なに食べても美味しいし」 『ふふっ。外回り頑張って』 画面を閉じたまま目線を走らせると、佐智が嬉しそうにこっちを見ていた。 「あ、いつ……会社だって事分かってるのか?」 外回りの事を考えると渋い顔になるが、でも心はどこか穏やかで落ち着いている。 あいつが傍に居てくれるから俺も幸せな気持ちになれる。 もう壊せない、壊したくないよな……この気持ちを。

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