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第4話

ラシェル視点 ++++++++++ 「ナフス、パンだ!」 「はぁ?」 「みんなでパンをたくさん焼くんだ!!」 泉から帰り、俺は早速侍従長のナフスへ声を掛けた。 「実は……」 そしてナフスに泉で見た光景とプレゼント作戦の事を話す。 しかし、奴の反応ときたら!! 「……ラシェル様、それ覗きですよ。変態王子誕生ですかね?」 「ぅ、うるさい!」 "変態王子"に少し涙目になってしまった。 ナフスにそんな烙印を押される前に、話題を変えねば。 そうだ。パン。パンを作るのだ。 せっかくだから、勇者様が気に入る物にしたい……。 勇者様が気に入る……笑顔……。ん? 笑顔? ―……勇者様は動物に囲まれて笑っておられたではないか! 「各自動物の形をしたパンを作ること!!」 そして俺達、捜索隊である男三十名は翌朝、早速作業に取り掛かったのである。 俺はたまに周りをチェック目的で歩き、熱心に作っている侍従長のナフスに声をかけた。 ナフスのパンが可愛く、愛情が感じられたのだ。 「ナフス……お前、何だ……その可愛い猫のパンは。お前の飼い猫がモデルか?」 「……いえ、ウチのではなく……。話を聞いて狼を……」 「え」 「…………」 俺から視線を逸らして、少し不機嫌そうなナフス……。 「図鑑があれば……」とぼやいていたが、結局そのまま製作していた。 多分、狼パンが気に入ったのだと思う……。 猫の方が雰囲気に合っている気がするが……。俺はそのままにした。 愛情は多分、勇者様相手だから、熱が篭ったのだろう。 表情があまり変わらない男だが、情熱家な様だ。 ―…そしてズラリと並べられた動物パン。 何だろう……壮観だ。 顔だけ、獣の手、全身……立体全身、って、自立してんのか! 凄いな! ちなみ唯一の自立する立体全身のクマパンは騎士団長作だった。 デキる男は作る物もデキる様だ。 だが、微妙なズレを感じるのは俺だけだろうか? そして捜索隊一の強面の男が、一番可愛いウサギの顔パンを作っていた。 何だろう……ゴツイ男は可愛い物を好む傾向にある気がする。 他の騎士達がそのパンを囲んで「可愛い」を連呼している。 俺もあれは可愛いと思うし、金が取れるレベルだと思う。 更に一番面倒臭がり……良く言えば効率良く動く男は棒を作ってきた。 俺が「動物だぞ」と言ったら、「これは"蛇"です」と答えてきた。 その回答に無言でいたら、先端で咬みあわせて、「では、蛇のウロボロスパンです」とか格好つけてきた。 少しムカついたけど、「それで良いや!」と納得させた。自分を。動物だし。 ちなみに俺はココアを混ぜた生地を作り、パンダの顔パンを作った。 うむ、可愛い。間違いない。期待した通りのデキだ。 俺が自分のパンダパンにほっこりしていたら、同じココア生地で虎模様を作って器用に全身の雄々しいホワイトタイガーパンを作ったヤツがいた。 製作者を確認したら、騎士団内一大人しい、穏やかな人物だった。 ……内面はタイガーなのだろうか……? まぁ、そんなこんなで男達のパン製作が完了したのだ。 ……では最終工程として、同行している魔術師達にパンを焼いてもらおう。 魔術での絶妙な火加減は彼らしか出来ない、熟練の技なのだ。 まぁ、言うと、手伝おうとすると怒られるので、最早誰も手伝わない。 絶妙なチームワームが大事なのだそうだ。 そして数時間後、騎士団長のクマパンが五倍に膨らみ、ツキノワグマがグリズリーにクラスチェンジするアクシデントがあったが、匂いだけなら美味しそうな動物パンが三十個出来た。 ……このパンを勇者様が気に入ってくれると良いのだが……。 俺は出来上がったパンを見て、気分が高揚するのと同時に"何か想像してたのと違う"という思いに駆られた……のは、…………内緒だ。……う、う~む……。

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