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第5話
ヤマト視点
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懐かしい、匂い……だったんだ……。
もう、食べられないと思っていた。
……"パン"。
それが……。
色んな形をした動物パンが、山で置かれてる……。
香ばしい匂いに誘われたのと久々のパンの味に誘われて、ここまで何も考えずに来てしまった。
ボクの目の前には、"山"に積まれたパン。
そして、差し出す動作をされれば、ボクの為にこうしてくれたのかな、って……思わず近づいた。
パンの山の向こう側には、距離をとって大人の男の人達がたくさんいたけど、誰も動こうとしない……。
でもその中からボクに昨日話し掛けてきた人が近づいて来て、可愛いウサギの顔パンを差し出してきた。
ボクは可愛いパンに魅せられて、そのパンを貰ってしまって……。
手に持ったパンは温かくて……焼きたてで……、何だか色々グチャグチャになって泣いてしまった……。
「ゆ、勇者様、泣いておられるのですか!?」
「…………」
……この人、何を言っているか分からない……。
分からないけど、ボクの事、心配してくれているみたい……。
……パン、我慢出来なくて勝手に果物と交換したのに。
優しいのかな?
「こ、これもどうぞ! パンだけでは喉が詰まると思うので……"シチュー"、です……」
そのシチューっぽいのもくれるの? やっぱり優しい人……なのかな?
あ……でも、スプーン、上手く使えない……。こぼしちゃうな……。
食器は久々に使うし……昔も、まだ上手く使えてなかったし……。
お母さんにも、「まだ上手に出来ないわね~」と笑われて口元をよく拭われていた。
……でも、シチューっぽいの、食べたい!
「……ぁぅ……」
「!!」
あ。やっぱり上手くいかない……。口の端からシチューを零しちゃった……。
何度繰り返しても、ダメ。汚れていくだけで、あまり食べられない……。
スプーンを持つグーに握った手が、ボクに悔しさを増させる……。
「……よ、宜しければ、俺が食べさせます……が……?」
「?」
何か言いながら、ボクの口元にシチューを掬ったスプーンをもって来てくれた。
"ちょん"って、スプーンの縁を何度かつけられて、口を開けるように催促された。
……食べさせてくれるの? ありがとう!
―ぱく! ……ニコ!
「!!」
食べた後、"ありがとう"、"美味しい"って、笑顔を作った。
笑顔で、"ありがとう"の気持ちが伝わると良いな!
そうだ!
ボクと友達になってくれるかな???
なら、名前、教えなきゃ!
何を言っているか分からないけど、"見える"ものなら、大丈夫かな?
そこでボクは布の裏に留めている物を取り出して渡した。
ボクの名前が書いてある、チューリップ型の幼稚園バッチ!
"やまと"って、書いてあるんだよ。分かる? どうかな?
ドキドキしながら、そっと……覗いてみる。
綺麗な薄紫色の大きな目と合った。
ボクの家の庭にあった藤の花より綺麗な色。
この男の人、格好良い……よりも、綺麗な美人、って感じの人だな……。
何だかドキドキして、頬が熱くなってきた……。
頭と胸の奥がジンジンしてくる。
こんなの初めてだ……。
白い肌に、薄いミルクティーの髪の毛、優しそうな少し垂れ目の大きな薄紫の潤んだ瞳、濡れた紅い唇は柔らかそう……。
その中でとても印象的な、朝露に濡れた藤の花に似た瞳……。
ボク、この人の事、……好き。
ボクに優しくしてくれた、綺麗な人。
"ありがとう"や"好き"な気持ち、伝えたいな。
でも、言葉が分からないんだよね……。
……ううん、大丈夫! ボク、ちゃんと伝え方、分かるよ?
毎日みんなから貰ってるのと、同じなのを真ねっこすれば良いんだよね?
だから……こうすれば……
―……ぺろッ!
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