13 / 40
第13話
ラシェル視点
++++++++++
「―……ヤマト様~! ヤマト様~!」
翌日、俺は早速ローティスと山に向かった。
そして、ヤマト様がどこに居るか分からないから、二人で呼び掛けを開始した。
すると直ぐにニコニコして、両脇にキノコを抱えたヤマト様が現れた。
超巨大な……マッシュルーム……。うん、多分、マッシュルームだ。
直径八十センチはありそうな、白いキノコ。
どこに生えているのだろうか……。
鼻先が少し土っぽい。……もしかして、四つん這いで……?
くんくん……
あ……。ローティスの事を……嗅いでいる?
ローティスは驚いている様だが、動かないでいる。
そして俺の方をチラと見て、ローティスに笑顔を一つすると、俺の方に駆けてきた。
そして……
―ペロペロペロ! にこっ
お、俺の事は舐めてくれるのか……!
でも、ペロペロされたのは口の端だ。
そして頬にも"ちゅちゅ"とキスをくれた。
これは顔がニヤける。
ローティスが居なかったら、俺もちゅっちゅしたい。
おっと! 危ない! 目的を果たさねば!
俺はヤマト様の手を取り、適当に見つけた開けた場所に入り、黄色い花を返した。
するとヤマト様は喜んでくれて、キノコを一つ渡してきた。
と、とりあえず貰ったが、結構重かった……。薄く切って焼けば良いかな?
俺はお礼を言ってその場に座ってもらい、次の目的に入った。
「さ、ヤマト様これを使って、俺と会話をしましょう?」
俺の言葉を聞いて、ローティスはひらがな表の上に指先で『かいわしよう』と指した。
しかし、それを見ていたヤマト様の反応は……
「……?」
反応が……薄い。
「どうされたのですか? ヤマト様?」
「???」
え……? こてん、と小首を傾げる?
この反応……もしかして、"ニホンゴ"を理解してない?
俺は嫌な汗が噴出し、ローティスは僅かに息を呑んだ。
黒いキラキラした瞳は容姿にしては幼く感じ、美しいと感じると同時に強い違和感を覚えた。
……そもそも、何でこんなに長く勇者様が見つからなかったのか。
しかも、こんな山奥……で、……人の気配が全く無い。
単純計算で勇者召喚から十八年位立っている。
流石に赤子状態で召喚を受けたのでは……無いと思う。
外見から二十歳前半と予想として三~五歳位に召喚を受けて、幼子のままここの動物に育てられたとしたら……?
あの食事風景が蘇る。たどたどしいスプーン、まだ慣れていない乱雑な運び……。
弟の……幼い頃の食事風景と同じ。
……だからこの青年は、見た目は二十歳前半で、中身が幼子の精神のまま……?
言葉を教えてくれる相手も、人らしい世話を焼いてくれる……"本来の見本"が長々と欠けた状態。
理解出来る悪意が無い分、ある意味純粋な精神が残ってそのまま上手く育った……。
それが、最後の勇者である…………ヤマト様……?
「~~~ッ……!」
俺は涙が溢れそうになった。
……勇者召喚とは、とんでもない罪を……作り出しているんだ……。
せめて、今から……何とかしないと……。
「―…………ラシェル……」
俺は自分を指して、ヤマト様に話し掛けた。
何度かそうしていると、ヤマト様の口が動き出した。
俺の意思を汲んで、真似始めてくれたんだな。
「……ラシェル」
「らー……しぇ?」
「ラシェル」
「らしぇ!」
「ラシェル」
「らッしぇル!」
「ラシェル」
「らしえる……」
「ラシェル」
「らしぇる?」
「ラシェル」
「……ラシェル」
「!」
「ラシェル!」
言えた! 俺の名前!!
「ヤマト様!」
「ラシェル!」
俺はヤマト様を呼び、ヤマト様は俺を……何度も呼び合った。
俺は……再び泣きそうで……。
でも、ヤマト様は真逆の笑顔で俺を呼んでくれる……。
―ちゅ。
……何だか、とても……切なくなり、ローティスが居るにも関わらずヤマト様の額にキスをしてしまった……。
ともだちにシェアしよう!