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第25話
ラシェル視点
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山を出発してから数日が経ち、帰る城が近く感じた俺は、少し大きめなテントに集まってもらった。
「遅い時間になってるが、ヤマト様の今後の……教育について、話していこうと思う」
集まってもらったのは、侍従長のナフス、騎士団長のルードゥル、魔術師団長のラジ、そして魔術師のローティスだ。
ローティスはニホンゴをある程度理解しているからな。
あとはヤマト様の従者の二人にも同席してもらった。ヤトとパルクだ。そのままの名で呼んで欲しいと言われた。
そして……ヤマト様本人は今頃、夢の世界だ……。
「…………ふ……」
……テントの中の寝顔を想像すると頬が緩む……。
毎夜、確認の為にテントに赴くが、その時の半開きの口が可愛く、その無防備さがやけに幼く感じるのだ。
同じテントに寝ているわけではないが、近くに存在があるのが嬉しい。
更に嬉しい事に、ヤマト様は教えればなかなか覚えが早い。
食事の時に幾つか言葉を繰り返したら、それを覚えて口にするようになってくれた。
そして俺はヤトとパルクに、ヤマト様と意思の疎通をどう行っていたのか聞いてみた。
彼らはただの獣ではないのだ。だから、何か……そう考えたんだ。
すると……
「俺達は多少、ヤマトとテレパスで片言の会話が出来る」
……さすが……半分は"神"……なだけある。
テレパスとは……想像すらしていなかった。
でもこれで、早くヤマト様と俺も会話が楽しめる様になるかもしれない、
従者の二人に協力してもらい、我が国で自動翻訳の補助魔具を作る。
そして、それを付けてもらえば……?
……文字の形をヤマト様が分からないのが結構な痛手だ。
ローティスのあの表……あれで解決出来れば良かったのだが……。
俺は勇者様方に憧れてはいたが、接触はしてなかったからな……。
ローティスと交流していた勇者様……"ミコト"様を、一番上の兄なら知っているだろうか?
長兄は勇者様方と一番直に交流していたから……。帰ったら聞いてみよう。
言葉以外にも、ヤマト様にはこの世界の事も知ってもらわねば……。
まぁ、言うと、……この世界には大きく分けて、五つの国と、大きな黒い穴が一つある。
◆ ウィオーレ
紫を基調とする、俺が生まれた、夜が長い国。魔力量が一番多く、魔法の知識や技術も高い。生活用品、医療用から戦闘向きまで大抵の"魔具"は我が国の物が多い。あとは国全体の植物等が独自に発光するものが多く、とても幻想的だ。喜ばしい事に、観光地として一番人気が高い。
ちなみに我が国では『S.A.M.D.』……"魔甲機械人形"の開発が行われている。
巨大兵器『S.A.M.D.』、通称「ドール」。
"sorcery(魔術)"
"armor(装甲)"
"mechanism(機構/機械)"
"doll(人形)"
これらの頭文字と取って、『S.A.M.D.』(エス・エィ・エム・ディ)と呼ぶ。
これは、魔力が高く濃いゆえに起こる"高濃度魔力心圧症"……の者が対象者。
大き過ぎる……濃度が濃い魔力は、体内に血液と同様に魔力が循環されるかぎり本人の身体に大きな負担を常に与えるのだ。
それを、"ドール"に流して遠隔操作することで高濃度の魔力の捌け口としてやるのだ。
魔力が上手く吐き出されば、身体の負担……心圧も減り、普通の生活が出来る。
……これは一応、万が一に備えて勇者様に代わる物として、ヤマト様を捜索し始めた年から研究開発している。
我が国を中心に、各国から技術者を募り一つのチームとして展開中だ。
現在は我が国の十八歳の男女各一名が対象で長年研究され、現在色々と順調な様だ。
俺は将来、男の対象者を討伐に同行させようと考えている。
今は巨大なドールは空間召喚魔法で呼ぶ事が出来るところまできているから、実用可能だと……。
……まぁ、詳しくは俺も分からないから、城に帰ったら研究塔を訪ねてみようと思う。
ちなみにこれは現在、二番目の兄がリーダーになり、進めているのだ。
そして他国はこんな感じだ。
◆アウド
黄を基調とする、砂漠の国。この国は昼夜の温度差が激しく、過酷な環境にある。しかし、希少な強い種の魔生物等が他より多く棲んでいる。肉弾戦も出来るレベルの高い魔法戦士を求めるなら、この国を尋ねると良い。一番前線の戦闘に長けた仲間が出来る。男女は総じて寡黙な者が多い。
◆キュヴィ
青を基調とする、海に囲まれた島国。魔術による身体の強化や治療が上手く、独自性が高い。その為か一番医療技術が発達している。島国ゆえか、興味が外へと行くようで好奇心旺盛なのも特徴だ。料理も独自で、調味料が発達しており、唯一、生の魚介類を好んで食べる国だ。
◆プラシロー
緑を基調とする、大森林の国。この国の者は歌声に魔力を乗せるのが上手い。歌声で会話をする程、高い音楽性が日常化している。また、音感が良いからか、踊りも上手い。他国に呼ばれて歌やダンスを披露する事が多く、それで培った社交性とスター性の高さからか何だかキラキラした者が多い。乗せられた魔力は精神に作用し、肉体強化される。青の国とは違う身体強化法だ。
◆ジェゴリ
赤を基調とする、昼が長い国。この国の者は魔力属性付加の武器や防具、服飾や宝飾に特化している。器用で芸術性が高いのだが、少々偏愛的な考えの者が多い。とにかく、作ったり、直したり磨いたりが大好きなのだ。あとは一番恋愛体質で奔放で開放的なのだ
説明の上が魔力が一番多い国で、この世界の強さの順位でもある。
言語は一つで、世界共通だ。
更に細かく分類すると、獣人等も入るがここは省かせてもらう。彼らもどこかの国に属して暮らしている。
世界的に恋愛や結婚は異性、同性の偏見はない。特別な事が無い限り、まさに好きにしろ、だ。
そして、厄最の狂竜が棲む、大きな黒い穴……は、神である竜の国『ネグプレ』に繋がっていると言われている。
もともとこの穴は小さかった。
そして噂では狂竜は、"流体"で、半不死だと……。
一世代前の古代竜種の老竜が役目を終え、この世界を担う筈の新しい古代竜種の竜の卵が孵る前に割れて一度命を落とし、その後形の定まらぬ姿で蘇生をうけた為に、半不死の流体になったと言われている。
"半不死"は、半分霊体であるからとの噂だ。
そして、孵化前の卵が割れて死に、色々欠けた状態で無理矢理寄せ集めて蘇生を受けた事で狂った……とされている。
そもそも、何で卵が割れて、どうやって蘇生させたのか……。
そう……この世界の唯一神は"竜"だ。
つまり、今生の神は狂ってしまったのだ。
―……誰も"神"に逆らえない。
それゆえの、"勇者召喚"なのだ。
しかし、勇者は誰も帰ってこず、狂竜がいまだ存在している。
俺はヤマト様にどこまで話せるだろうか……。
―……神の元から一人も帰ってこない、勇者の話しを……
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