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第29話

ジークラン視点 ++++++++++ 「―……それではヤマト様、数を百、数えたら上がりましょう」 「うん!」 ……勇者殿……いや、ヤマト様は育った環境から、まだ"幼いまま"だと、軽く報告を受けていたが……。 成り行きで今は俺も入浴している。 浴場は広いから、男三人でも全然大丈夫だ。 「……よんじゅうごー……、よんじゅうろくー……」 「……」 ―……確かに、幼く感じる。 「ヤマト様、大分こちらの言葉での"数"を覚えましたね」 「うん、ラシェル、褒めて!?」 好意を前面に惜しげもなく出して、兄上に向けるヤマト様。 そんなヤマト様の頭を撫で始める兄上。 昔の自分を思い出してしまう……。 今のヤマト様のポジションは、幼い自分……のものであったのだ。 もう幼くなくなったが、兄上の"隣り"は俺だと思っていたのに……。 「ふふっ」 「わぁい! ラシェル、大好き! ん~……ぺろ……ちゅ、ペロペロ……」 「ふぁ!? やまッ……!? ~~~!!?」 それにしても……兄上に対する、純真無垢、全面的好意な態度から繰り広げられる無邪気な手技の数々……。 それに翻弄され、乱れる兄上……。 今も目の前で抱きつかれて、唇をペロペロされている。 俺を気にしながら、ヤマト様を受け入れている兄上が何だかとても健気だ。 「……はぁ……」 ……悔しいが、俺以外で兄上を触るのを少し認めよう……。 ヤマト様なら、不思議と少しなら許せる……気がする。 現に今も、二人のじゃれつきに"もっとやれ!"、とか思っている。 「…………はぁ……」 ……俺が一番……ラシェル兄上を全方向から満足させられると思っていた。 俺の願いを少し困った様に、優しく受け入れてしてくれる兄上……。 ……愛……している。 このやっかいな感情の正体を、俺は自覚している。 ……物心ついた時から、当然の様にこれは俺の心にあった。 恋心と愛情が混ざり合い、色濃く、深く、俺の身動きを封じる様に絡めてる。 許されない感情だと、分かってる。 「…………」 でも、ヤマト様と兄上を見ていると、俺のこの感情が……何か、変化が起きそうなんだ。 こう……見守っていたい……もしくは、二人に混ぜて欲しい様な……。 ヤマト様と俺で、ラシェル兄上をトロふにゃに……シてみたいなぁ、とか考えてしまうのだ。 ……兄上は相変わらず細身そうで、体重もやや軽めだろうから……俺が抱えて、ヤマト様が兄上を……ふにゃふにゃに……。 兄上はヤマト様を最終的に受け入れてしまいそうな雰囲気さから、おそらく俺の考えでは大体受け入れる。 ……もしくは、兄上の中に何か……ヤマト様に対して生まれているのかもしれないが…… 「―……ジークラン、ジークラン、俺達、もう上がるぞ?」 「……え? あ、はい……俺も上がります」 考え事が過ぎた様だ。 もそもそと着替えていたら、兄上から後で壁裏から出て来た事について話そうか、と笑顔で凄まれた。 本当は出て行くつもりはなく、兄上補給だけにしようと思っていたのだが、こうなっては仕方ない……か。 俺の本心は言わないにしても、どう説明するかな。 そんな事を考えながら兄上に頷いた。そうしないと……というか、逃れられない雰囲気を感じたのだ。 「……今夜は俺の館で休むか?」 「いえ。王城内の自分の館に帰ります」 「……そうか。残念だな」 「そう言ってもらえて嬉しいです。兄上は旅の疲れを癒して下さい」 「ああ、ありがとう、ジークラン。……では、後日な!」 「はい。おやすみなさい」 そしてラシェル兄上とヤマト様にお辞儀をして、俺は兄上の館を出た。 俺の館は兄上の直ぐ近くだ。 俺は頻繁に兄上の所に遊びに入っていたし、認識の度合いはあるが俺がラシェル兄上至上主義だというのは大体の者はもう分かっている。 テクテクと歩いていても、平和な城内。 世界共通の敵である"最厄の狂竜"のおかげか、国間の仲は案外良い。 戦闘があっても、もっぱら魔獣や魔物相手だ。 俺は騎士職についており、色々呼び出されて討伐はあるが、おおむね平和なのだ。 「……さて……夜風に当たりながら館の部屋に戻るか……」 まぁ、王城内の自室に戻ったら、浴場での洗われるラシェル兄上を思い出して……から、ぐっすり休むつもりだがな! ふふふ!! そして彼は帰り道で、白い子猿に出会うのだが……でも、それは別な話……

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