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第32話
ヤマト視点
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目の前には朝露に濡れ光る、紅色の果実。
―くんくん……
「……この実だ」
ボクは匂いを嗅いで、熟れ始めの頃合の良い物を選ぶ。
ラシェルと美味しく食べる為に、ボクなりに真剣だ。
「やぁ、来たね、勇者様」
たくさんある実から一つもいだ時、突然の声に振り向いた。
そこには白を基調とした綺麗な男の人が立っていて……。
気配が……感じられなかった……。
山で暮らしていたボク。それなりに気配察知は自信があったのに……。
「その実には、君に必要なモノが詰まっているよ」
「……?」
ボクに必要なモノ?
「ふふふ……それはね、"知の林檎"と言うんだ。食べると、その人に必要な知識が一つ、授かるよ」
そう言いながらボクに近づいて来て、「一つ……それを食べてみなよ。勇者様なら、もっとこの世界の言葉が分かる様になるよ」と勧められた。
手に持った林檎……。
ボクが林檎を見つめている間にも、白い男の人は「さぁ」と言ってくる。
その声は穏やかだけど、どこか抗いがたく、彼に言われている事が"当然"の様に思えてきて……ボクは林檎に歯を立てた。
"ガリ"という感覚と、口に広がる甘い匂い……蜜感の強い林檎の味……そして……
「……ヒグ!?」
頭を殴られた様な感覚が、急にボクの中に起こった。
そして、"何か"が流れ込んで来て、ボクの頭を埋めていく。
不快ではないが、大きな変化を感じる……。
駄目だ……立ってられない。
「ふふ……。異世界の勇者・大和。
夜の国・ウィオーレにようこそ……その実は私から、君へプレゼントだ。
……また会おう!」
そう言うと、ボクの目の前で大きな白いフクロウになって、飛び去ってしまった……。
「空……」
そうか。
突然の気配は、上から現れたから?
林檎に大きな白いフクロウ、変身した男の人……不思議な出来事!
ラシェルに話そう!
そしてボクは新たに実を採ろうとして視線をそちらに向けた。
「!?」
そんな……あの実が一つも無くなっている……!?
あんなにたくさん実がなっていたのに!
ボクは綺麗に無くなった林檎を残念に思いながら、新たなものを見つけてラシェルの元へ帰った。
新しいのは、ブルーベリー。
これもとても美味しそうだから……まぁ、良いか!
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