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第2夜
翌日。またもや同じような夜更けに、表の戸を叩く者がいた。
「やれやれ、またか」
眠たげな声を残し、アザミが表の戸へと向かっていく。
少しの問答の後、私の部屋へ来たアザミは妙なことを告げた。
「届け物を持ってきた、と言うて帰らぬ。どうしたものか」
「届け物?……どこの誰からか、訊いてみたか?」
「それが、此方に縁ある者としか、言わぬのだ」
ふむ。
私は腕組みをした。
私と縁ある者がアザミ以外、この世にあろうはずが無い。
すると、これは相手の勘違いかもしれぬ。
「物はなんだ?」
「どうも、みてくれからすると琴らしい。持ってきた者たちは、みな良い衣をつけ、衣からは何とも良い香りがしている」
「ははぁ、どこぞの公達か。では、此方は物忌みの最中だと言ってみろ。帰る筈だ」
表では、まだ押し問答しているようだったが、私はその内にうとうととし始め、文机に突っ伏したまま寝入ったらしかった。
「あぁ、いたたたたっ!」
変な格好で朝までねてしまったせいか、固まった肩や痛む腰をこわごわ伸ばしていると、アザミが手水鉢を持ってきた。
「今日は御命日だからな」
「あぁ、そうか」
いつもはしない身仕度を整え、墓に詣るべく、私は静かに外へ出た。
「あれ?」
見慣れないものが、戸の外に立てかけてあった。
「もしや……」
「あの阿呆共め!こんなところに置きざりにしおってっ!」
アザミが大声で怒鳴った。
「まぁ、そう言うな」
たしかに困ったことにはなったが、さりとて琴に罪は無い。
私はソッと油紙をまくり、錦で出来た袋を確認した。
「どうやら、かなりの逸品らしいじゃないか」
「だから、余計に腹が立つのだ!」
言い方も、足音も荒かったが。
琴を運ぶアザミの手は、赤子を抱くように優しかった。
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