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第3夜。

昼間の疲れが出たのか、いつの間にか、寝入ってしまっていたようだった。 もう夜更けだ。 寝直そう、と私は再び横になった。 しかし、それからいくらも経たぬ内に ほとほと、と戸を叩く音がした。 今度は、随分音が近い。叩かれているのは、私の部屋の前の戸だ。 今宵のアザミはいつもより深く寝入っているのか、一向に出てくる気配がしない。 「もし、すみません。どなたかいらっしゃいませんか?」 若い男の声だ。焦っているのか、少し掠れている。 「申し訳ありません。只今あるじが持病で伏せっておりまして……」 仕方なく戸に近づいた私は、下男のフリで断りを口にした。 「いや、貴方でも構いません。昨夜、此方に届け物があったと思うのですが……?」 「ああ、あの琴でございますね」 「そうです。あれはまだ此方に?」 「ええ、ございますとも」 「良かった……」 届け先を間違えたことに気付いて、急いで取りに来たのだろう。 私はヒッソリ訊ねてみた。 「持ち帰られますか?」 「是非そうしたいところですが。そちらの主様に一言御挨拶をせねば……」 すると。 どこからか、琴を搔き鳴らす音が響き渡った。 (アザミの仕業だな) その音を耳にするなり、男は押し黙った。 私は内心、面倒なことになったぞと考えた。 アザミは琴の名手だ。これが因でどこぞの屋敷へ呼ばれることになるかもしれぬ。 そうなったら……。 いや、今は何も考えるまい。 私は戸の傍を静かに離れた。

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