4 / 12
第3夜。
昼間の疲れが出たのか、いつの間にか、寝入ってしまっていたようだった。
もう夜更けだ。
寝直そう、と私は再び横になった。
しかし、それからいくらも経たぬ内に
ほとほと、と戸を叩く音がした。
今度は、随分音が近い。叩かれているのは、私の部屋の前の戸だ。
今宵のアザミはいつもより深く寝入っているのか、一向に出てくる気配がしない。
「もし、すみません。どなたかいらっしゃいませんか?」
若い男の声だ。焦っているのか、少し掠れている。
「申し訳ありません。只今あるじが持病で伏せっておりまして……」
仕方なく戸に近づいた私は、下男のフリで断りを口にした。
「いや、貴方でも構いません。昨夜、此方に届け物があったと思うのですが……?」
「ああ、あの琴でございますね」
「そうです。あれはまだ此方に?」
「ええ、ございますとも」
「良かった……」
届け先を間違えたことに気付いて、急いで取りに来たのだろう。
私はヒッソリ訊ねてみた。
「持ち帰られますか?」
「是非そうしたいところですが。そちらの主様に一言御挨拶をせねば……」
すると。
どこからか、琴を搔き鳴らす音が響き渡った。
(アザミの仕業だな)
その音を耳にするなり、男は押し黙った。
私は内心、面倒なことになったぞと考えた。
アザミは琴の名手だ。これが因でどこぞの屋敷へ呼ばれることになるかもしれぬ。
そうなったら……。
いや、今は何も考えるまい。
私は戸の傍を静かに離れた。
ともだちにシェアしよう!