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第5夜
道草少将
都の公達の中でも選り抜きの名家の子息。
そして、出かける度、道に迷ってしまうという、変わった人物としても有名だ。
嘘か真か、行く先々で歓待されるほど、人好きのする美丈夫だという。
噂の姫を訪ねていく途中、道に迷って我が家へ辿り着いたのか。
「なるほど」
「何がなるほど、だ。左大臣に連なるものに目をつけられたのだぞ?」
アザミは尖った声で私を非難した。
私の父は左大臣の讒言で、職を失い、住まいを追われたのだそうな。
その上、不運なことに、身重の母と都を出る寸前、出くわした野盗に命を奪われてしまった。
以来、私は此処でヒッソリ暮らしている。
よもや、事情を知らぬあの男が忠進するとは思えぬが、アザミの言う通り、用心するに越したことはない。
「そうだな。また暫く、南の庵へ行くとしようか」
「彼処へゆくは一昨年の夏以来だな。朽ちてないと良いが」
「いっそ朽ちて果てておれば、誰も近付くまい」
「それもそうだな」
軽口をたたきながら、私とアザミは、それぞれに荷造りを始めた。
しかし。
例の琴を持って行くか否かで、少し言い争ってしまった。
「持って行くものか!あれがあれば、必ず弾いてしまう。そんなことをしたら、たちまち居所がバレる。それでは隠れる意味が無い」
「しかし。あれはお前も気に入っていただろう?それにせっかく少将が下さった品を……」
「なぁ、若。所詮ものは、ものでしかない。それにもうこれきりという訳でもあるまい」
「……そうだな。書物も沢山置いてゆくのだから、戻った時の楽しみとしよう」
私は後ろ髪を引かれながらも、我が家を後にした。
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