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第8夜。
庵に着いて三日目の夜。私は寝床で口を尖らせていた。
「失敗した。やはり、紙をもっと持ってくれば良かった」
「焚き付けにするためか?」
「そんな訳がないだろう!」
「では、何の為だ?」
「書く為だ」
「一体何を?……あの少将に恋文をか?」
ヌッと突き出た腕に囚われた。
「何を言う、アザミ。私はいつも通りにしたいと願っただけだ」
「本当に?」
「この私が、おまえに偽りを言うてなんとする」
私はアザミの黒い瞳を見つめながら言った。
「私は異形だ。どこにも交じれぬ身。それを忘れたことはついぞありはせぬ」
真っ白な髪に、真っ赤な目。
それが私が人目を避けて隠れ住む理由だ。
「お父様が斬られる瞬間を見てしまったお母様の恐怖、心労が貴方に流れ込んだのやもしれません」
父母の墓を建ててくれた寺の僧都はそう言っていたが、それもどうだか分からない。
日の光に弱い私の世界は、時折僧都から差し入れられる書物とアザミと、薄暗い我が家の中だけだ。
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