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第9夜
「そろそろ、戻らないか?」
丸く肥った月を眺めながら、私はアザミに言った。
「なんだ、もう里心がついたのか」
その手元には、手入れの最中の鉈があった。
「ああ。もう山菜は食べ飽きた」
「なら、釣りはどうだ?」
アザミは昔から魚釣りが上手い。
「魚を食べるのは、好きだが。釣りは嫌いだ。眩しくてかなわない」
「笠をつければ良い」
「笠をつけても、下からの光はまともにくるのだぞ?」
私は川面の光を思い出して、顰め面で答えた。
「わかった。わかった。では、明日。俺が様子を見てくる。若は此処で、待っておれ」
「私も行く。行かせてくれ」
「駄目だ。若に万一のことがあったら、俺は……」
「万一のこと?」
「いや……。何でも無い。今宵はもう、やすむとしよう」
手早く鉈や道具類をしまうと、アザミは私を急かして、夜具の中へと押し込んだ。
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