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第7話
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天気の良い五月の放課後に図書室にいるのは、持ち回り当番で来ているやる気のない図書係と、自習をする受験組の生徒位だ。
大きなガラス窓からベージュのシェード越しに射し込む春の光の柔らかさも手伝って、勉強している生徒もどこか気持ちが少し浮足立って集中しきれていないようだった。
下校後、本屋に寄って参考書を買う予定の密は、遊ぼうという友達の誘いを断って一人図書室に向かった。
返却期限の近づいた本を返してから帰ろうと、鞄を片手に図書室の扉を開き、カウンターに向かう。
図書係の無愛想な一年生が返却処理をしてくれるのを横目に閲覧机の方を見ると、離れた所に佐藤類が横顔を見せて座っていた。
片肘を突きながら机に広げた本に視線を落としている。単調にページを繰る早さからは、読む、というよりは眺めているだけのようだ。
光を反射する黒髪の下、うつむき加減で伏せられた睫毛がくっきりと見える。
「他に返す本ありますか?…おーい、もしもし」
ぼんやりとしていたせいで、面倒くさそうなその声が自分に向けられたものだと気付くのが遅れた。
静かな図書室で声は意外に遠くまで響き、類は本から顔を上げてカウンターに視線を向けた。
――あ、有本密だ。目立つなあ。
類の視線が密の顔をとらえる。見ていたことを咎められた気がして、焦っているのを気付かれないように密は大きくかぶりを振り、何も言わずにそそくさと図書室を後にした。
大きな背中が恥ずかしそうに扉から走り出てゆくのを、類は不思議な気分で見ていた。
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