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第11話
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男子高校三年生の無駄に湧き出るエネルギーを発散するための組んであるのではないかというくらい、体育の授業では体を思い切り使える柔道や機械体操を選択する生徒が多かった。
しかし密は、コートの中で相手を振り回しながら攻めてゆくのが面白そうだから、という理由でバドミントンを選んでいた。
同じように集まった十名の生徒が、授業前に自主的にコート2面を準備をしてゆく。その日密が体育館に入って行くと、先に来ていた生徒がのんびりと話をしながら、誰かが準備をしないか互いに牽制し合っていた。
――さっさとやればいいのに、下んねえ。
内心呆れながら、密はネットを取りに用具室に向かった。誰もいないと思っていた薄暗い人の気配を感じて中を覗くと、類がいた。
あ、と思った瞬間、密度の高い空気が身体を包み、ふっと汗ばんだ。
薄暗い蛍光灯の下、類は人が来たことに気付かずに棚からネットを下ろしている。
「どのネットか分かる?」
目の前でネットを持っている相手に対してこの問いはないだろう、と思う余裕も密にはなかった。
そこで類を見つけたことが嬉しくてたまらなかった。
でも半分しか開いてない引き戸の出入り口を塞ぐ形で立つ密に、類が気付いた瞬間空気が変わった。
小さな空間で、一瞬全ての音が消え空気が張り詰めた。薄暗いのに、固まった類の表情がなぜかくっきりと見えた。
息をするのを忘れるほどの緊張感に、密の方が戸惑った。
――あ、もしかして…
倉庫の中でネットを持ったまま立ち尽くしている類に対し、半分閉まっていた引き戸を全開にした。
「類、先行って。残りのポールは俺が持って行く」
そう言いながら図書館での出来事を思い出した。閉所恐怖症?いや一人で用具室に入っていたからそれはない。もしかすると閉鎖空間に他人といるのが嫌なのかもしれない。
入口を塞がないように端に寄って出るように促すと、ネットを抱えたまま礼を言って素早く走り出て行った。
――泣きそうな顔して。年上の癖に。
そう思いながら、密は胸元がじわりと甘く痺れるのを感じていた。
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