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第15話

放課後の理科棟周辺の空間は、大抵吹奏楽部の練習の音で満たされている。 楽器ごとに分かれて練習しているため、いろんなパッセージが同時に聞こえてきて、それぞれを聞こうとすると酔いそうになる。 この時点では騒音としか思えない音を聞きながら、帰宅部の密は校門に向かっていた。 夏休み直前のこの時期、駅までの道のりにはほとんど日陰がなくて辛い。それを見越したかのように、校門にほど近い理科棟への渡り廊下には自動販売機が置かれていた。 冷たい飲み物の誘惑に勝てず、密は硬貨を入れてボタンを押す。 業者が補充したばかりなのか日が当たるせいなのか、鈍い音を立てて落ちて来たペットボトルはあまり冷えてなかった。 密はガッカリしながら蓋を開けて口を付けた。 喉を上下させながら一気に半分ほど飲み干すと、視線の先には丁度地学準備室がある。 冷房の効いた準備室では野尻が類を待っていた。 オンラインで知り合った友人達に聞きまわったけれど、ネットに出ていた事件の被害者と類が同一人物かどうか特定することはできなかった。しかしそんな事はもうどうでもよくなっていた。 調べている内にどんどん執着心が膨れ上がっていた。 授業中に事あるごとに類の顔を見つめてくる野尻に、類は不快感や嫌悪感を募らせていた。一度認めてしまえばその感情に飲みこまれてしまう。この場所に居続けるために、そんな気持ちを何とか押し殺し、表情に出さないように努めていた。 何かを抱えながら不本意そうに我慢している類の様子は、野尻の好奇心を大いにそそっていた。 夏休み前のテストの答案を返却した後、わざわざ本棟に行き偶然を装って一人きりで歩いていた類に耳打ちした。 「テストの答案と、前の学校での事で聞きたい事がある。放課後準備室に来るように、な」 具体的なことは何も言わない。例え学校に告げ口されても、転入前にどんな内容を学習してきたのか聞きたいのだ、と言えば問題はないはずだ。 しかし野尻の言葉に類はあからさまに動揺していた。 それが、自分の持っていた疑問への答えだ、と野尻は確信した。

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